ファクタリングで債権の二重譲渡は犯罪!罪に問われる理由とその末路とは

ファクタリングは売掛債権をファクタリング会社に売却し、支払われる予定期日よりも先に代金を現金化することで資金を調達する方法ですが、二重譲渡は禁止されています。

売掛債権は現物資産とは違い目に見えない財産のため、すでに別のファクタリング会社に売却されているのにもかかわらず、新たな業者に持ち込み売ろうとすることを二重譲渡といいます。

ファクタリングによる二重譲渡が行われた場合、その債権は誰が権利を持つのか証明することができず、買い取ったファクタリング会社にとっては大きな痛手となってしまいます。

そして二重譲渡を行った利用者は詐欺罪の対象となり、刑事事件としてファクタリング会社に告訴される可能性もありますので絶対にしてはいけません。

そこで、ファクタリングで債権の二重譲渡は犯罪行為となる理由と、もしやってしまった場合にはどうなるのか、その末路について解説していきます。

ファクタリングとは

「ファクタリング」とは、個人事業主や企業が所有している「売掛債権」を売却して現金化する資金の調達方法です。

「売掛債権」には受取手形と売掛金があり、どちらも商品やサービスを販売した代金を後払いする掛け取引で発生しますが、ファクタリングで「売掛金」を現金化します。

売掛金が発生する取引では、売掛先との間で合意した支払期日に販売代金を受け取りますが、ファクタリングでは「債権譲渡契約」を結びます。

保有する販売代金を受け取る権利をファクタリング会社へ売却することで、対価である買取代金を受け取る契約です。

利用者が保有していた債権を回収する「権利」は、利用者からファクタリング会社へ移転されることとなります。

ファクタリングの種類

ファクタリングによる二重譲渡を理解するために、まずはファクタリングの種類について知っておきましょう。

ファクタリングには、次の2つの契約方式があります。

  1. 2社間ファクタリング
  2. 3社間ファクタリング

それぞれの契約方式について説明していきます。

2社間ファクタリング

「2社間ファクタリング」とは、利用者とファクタリング会社の2者で契約を結ぶ契約方式であり、代金を支払う売掛先は契約に一切関与しません。

売掛先が関与しないため、2社間ファクタリングの利用者は次のメリットを活用した資金調達が可能です。

  • 必要書類が少なく手続が簡単
  • 最短即日などスピーディな資金調達が可能
  • 売掛先に知られることなく手元の資金を増やすことができる

ただし売掛先が間に入らないため、売掛金が誰のものか証明しにくい状態です。

そのため2社間ファクタリングを利用するときには、債権の譲渡に関する事実を法務局で登記する「債権譲渡登記」をファクタリング会社から求められることがあります。

登記を行えば、債権者が変更されたことを誰でも確認することができるため、ファクタリング会社は権利関係でトラブルになったときにも権利者であることを主張することが可能となるからです。

ただし売掛先や取引銀行が登記情報を確認しないとも限らず、もしも確認されれば資金繰りが悪化している会社であると懸念を抱かれ、その後の取引に影響しないとも言い切れません。

一部のファクタリング会社では債権譲渡登記を「未登記」や「留保」で対応できるため、債権譲渡登記なしで2社間ファクタリングを利用したいなら、登記必須ではないファクタリング会社を選ぶことをおススメします。

3社間ファクタリング

「3社間ファクタリング」は、利用者とファクタリング会社だけでなく、売掛先も関与するファクタリングです。

ファクタリング会社と売掛先間で書類を交わすことが必要になり、売掛金の支払期日には売掛先から直接ファクタリング会社に支払いが行われます。

そのため売掛先から協力を得ることができなければ成立しないファクタリングといえますが、ファクタリング会社にとっては2社間ファクタリングよりもリスクの低い契約となるため、手数料は安く設定されることが特徴です。

ただし、売掛先も含めた契約となることは、必要書類が増えることや売掛先に協力を得るための説明など、手間や時間がかかります。

ファクタリングに理解してくれる売掛先でなければ協力を得ることができず、ファクタリングを利用したいことを伝えるだけに留まれば、資金調達できない上にその後の取引に影響が及ぶといった結果になるリスクも踏まえて選ぶことが必要といえるでしょう。

二重譲渡とは

「二重譲渡」とは、同じものを複数手に譲渡することであり、売主が1つの資産を2人(または複数)の買主に別々に譲渡するで、不動産業界で用いられる言葉です。

ファクタリングで二重譲渡の対象となるのは「売掛債権」ですが、誰が譲渡を受け権利を保有するのかが問題となります。

そもそもファクタリングはお金を借りて資金を調達する方法ではなく、売掛債権の売買契約による資金調達の方法です。

当事者の意思表示のみで成立すると二重売却が可能となり、2人の買主が所有権を保有することになってしまいます。

当然、権利は共存できないため、債権譲渡登記が行われた場合には先に登記完了で権利者となった者が権利を保有します。

他方は「債務不履行」となり、利用者に支払った買取代金の返済や損害賠償など、契約上の責任を問うしかなくなるでしょう。

複数のファクタリング会社に売掛債権を売られてしまうと、債権譲渡登記に遅れたファクタリング会社は権利を獲得できず、期日に売掛金を回収することもできません。

売掛金の買取代金を利用者に支払っていれば、買取代金として利用者に渡した金額分、ファクタリング会社は損失を被ることとなります。

そのため被害に遭ったファクタリング会社は、損失分を回収するために「損害賠償請求」するなど法的措置をとるしかなくなるといえます。

ファクタリングで行われる二重譲渡の手口

ファクタリングで売掛金が二重譲渡されやすいのは、そもそも売掛債権が目に見えない資産だからです。

ファクタリング会社もそのリスクを十分に理解しているため、二重譲渡については常に警戒しています。

被害に遭ったときには損害賠償請求するといった対応をしていますが、それでも回収できるとは限らないため、未然に防ぐことが一番だからといえるでしょう。

二重譲渡は「悪意」のある債権譲渡であり、次のようなケースが挙げられます。

  • 短期間で二重譲渡を繰り返し多くの資金をだまし取ろうとする
  • 資金繰りに困っているため後で埋め合わせするつもりで二重譲渡に踏み切る

ファクタリング会社にとって二重譲渡被害は避けなければならないことであるため、審査でもしっかりと確認されます。

二重譲渡以外の犯罪行為

ファクタリング会社が買い取るのは売掛債権という目に見えない資産です。

その性質を悪用し、「架空」の売掛債権をファクタリング会社に売却しようとする行為もみられます。

ありもしない取引を作り上げ、売掛債権を保有しているようにみせかけるため、

  • 請求書の偽造・捏造
  • 決算書や試算表の粉飾

などを行いファクタリング会社に持ち込んで騙そうとします。

さらに悪質なケースになると、取引先と共謀して架空の売掛債権を作成し、ファクタリング会社から調達した資金を分け合おうとするケースもあるのです。

しかし、そもそも発生していない売掛債権のため、設定した売掛金の入金期日には当然、ファクタリング会社にその代金が入金されることはありません。

何らかの方法で入金する代金の準備ができれば嘘がバレてしまうことはないでしょうが、もともとお金がなく二重譲渡や架空債権という形で資金を調達しているので準備できるわけもなく、結局は詐欺行為が発覚することになり罪に問われてしまいます。

また、ファクタリングの申し込みでは本人確認のための免許証や、取引履歴を確認するための預金通帳、取引実態を証明する基本契約書などもファクタリング会社に提出します。

これらの書類も偽造すれば、私文書偽造罪・行使罪・詐欺罪などの罪の対象となるため、不正は行わず正しく安全にファクタリングを利用することが絶対です。

二重譲渡が隠し通せない理由

ファクタリングで二重譲渡を隠し通すことができず、発覚する理由はいろいろあります。

3社間ファクタリングは売掛先も契約に関与するため、二重譲渡が行われる可能性があるのは「2社間ファクタリング」です。

しかしファクタリングで二重譲渡を隠し通すことはできないといえますが、その理由として主に次の2つが挙げられます。

  1. 債権譲渡登記の情報を照会される
  2. 支払期日に未入金なら確認が入る

それぞれの理由を説明します。

債権譲渡登記の情報を照会される

ファクタリング利用を申し込むと、ファクタリング会社で「審査」が行われます。

このとき、ファクタリング会社が法務局で「概要記録事項証明書」を取得し、登記情報を確認すれば二重譲渡は見抜かれます。

ただ、2社間ファクタリングはすぐに資金を調達したいと希望する方が利用するため、スピード重視です。

登記情報の確認は後回しにして売掛金を買い取ることも少なくないため、審査や見積もり段階で発覚するケースは比較的少ないとも考えられるでしょう。

ただし見積もり段階で発覚しなくても、「債権譲渡登記」が必要になったときには必ずバレてしまうことになります。

既に他社で売掛債権を譲渡後に債権譲渡登記が完了していれば、その事実が登記されているからです。

ファクタリング会社が債権譲渡登記を求めるのは、先に登記を行えば権利を主張することができるためであり、二重譲渡など不正に騙されないためともいえます。

支払期日に未入金なら確認が入る

ファクタリング会社によっては、債権譲渡登記は「未登記」や「留保」で対応可能という場合もあり、その場合には登記がされていない状態です。

しかしいずれにしても二重譲渡があれば必ずバ発覚します。

そのタイミングは売掛金の「支払期日」です。

2社間ファクタリングを利用した場合、利用者とファクタリング会社だけで契約を結ぶため、売掛金の回収は利用者が行います。

支払期日には売掛先から利用者に売掛金が支払われますが、売掛金を回収した後はそのままファクタリング会社に渡すことが必要です。

そのため2社間ファクタリングでは、債権譲渡契約だけではなく売掛金回収業務委託契約もファクタリング会社と結ぶことになります。

しかし二重譲渡した利用者は、複数のファクタリング会社と売掛金回収業務委託契約を結ぶこととなりますが、売掛金は同一なのでの売掛金回収業務を委託できるのは一社のみです。

入金されなかったファクタリング会社は利用者に入金を促すこととなり、それでも支払いがなければ二重譲渡の可能性を疑って登記情報を照会され、二重譲渡が発覚します。

二重譲渡が発覚した会社の末路

ファクタリングで売掛債権が二重譲渡されると、後で債権譲渡を受けたファクタリング会社は売掛金を回収できません。

そもそもすでに譲渡された債権と知っていれば、最初から審査に通すことはなかったはずです。

そのためファクタリングで二重譲渡してしまったことが発覚した場合には、ファクタリング会社を騙した罪に問われます。

二重譲渡が発覚した会社は、次の4つの末路をたどることとなるでしょう。

  1. 詐欺罪で処罰
  2. 横領罪で処罰
  3. 懲役刑を科される
  4. 社会的信用を失う
  5. 損害賠償請求される

それぞれ説明します。

詐欺罪で処罰

ファクタリングで二重譲渡があった場合、「詐欺罪」で処罰されることになります。

売掛金の二重譲渡は明らかに犯罪であり、ファクタリング会社を欺き売掛金を買い取りさせ、その代金を支払いさせた詐欺罪に該当します。

二重譲渡で資金調達できれば一時期的に手元の資金は潤うでしょう。

しかし後日、売掛金が二重譲渡したことが発覚すれば、ファクタリング会社を欺き買取代金を支払いさせた事実で詐欺罪が成立します。

仮にファクタリングの申し込みでまだ見積もり段階というタイミングで二重譲渡が発覚した場合、買取代金の支払いはされていませんが詐欺未遂罪に該当することになります。

同じく刑罰の対象となるため、ファクタリング会社を騙して資金を調達しようとすると罪に問われると十分留意しておくようにしましょう。

横領罪で処罰

ファクタリングで二重譲渡があると、詐欺罪だけではなく「横領罪」が科される可能性も十分高いといえます。

「横領」とは、公共物や他人の所有物を不法に自らの持ち物とする行為ですが、ファクタリングで売掛金を売却すれば売掛債権の権利は利用者からファクタリング会社へ移ります。

しかしファクタリングの二重譲渡は、ファクタリング会社に移ったはずの債権回収の権利により回収した売掛金を、自社のものと偽って他のファクタリング会社に売ることです。

回収した代金を使い込めば、本来ファクタリング会社が受け取るはずだった代金のため横領罪に問われることとなるでしょう。

単なる横領罪は5年以下の懲役ですが、ファクタリングで二重譲渡した場合で業務上横領に該当すれば10年以下の懲役が科されます。

「業務上横領」とは、業務上の都合で横領することですが、利用者がファクタリング会社に代行する形で回収し手元にとどまった売掛金を業務上の都合で横領することとなるため、ファクタリングによる二重譲渡は業務上横領に該当する可能性があります。

懲役刑を科される

ファクタリングによる二重譲渡で罪に問われれば、「懲役刑」を科せられる可能性があります。

二重譲渡はファクタリング会社を騙す犯罪行為であり、企業犯罪は個人による犯罪よりも社会的影響が大きく重いと捉えられます。

企業犯罪をした会社は、犯罪行為の責任者である経営者や担当者が処罰されることとなり、法人に対する処罰が付随することになります。

資金繰りが厳しく出来心や従業員の生活を守りたい気持ちでやってしまうこともあるでしょうが、経営者が法的・道義的責任を負わなければなりません。

詐欺罪・横領罪を同時に科されれば、被害額によって異なるものの、10年以下の懲役となる可能性が高く、初犯でも実刑判決を受ける可能性が高いと考えられます。

売掛金を複数のファクタリング会社に長期間にわたって二重譲渡を繰り返していた場合などは被害額が大きくなるため、懲役刑になるリスクは高いと考えられるでしょう。

社会的信用を失う

ファクタリングで二重譲渡し詐欺罪の対象となったとしても、初犯で被害額も少なければ実刑判決にはならないかもしれません。

二重譲渡により被害を受けたファクタリング会社の損害賠償請求に応じれば、問題は解決することができる可能性もあります。

しかし詐欺罪や横領罪の対象となったことで、会社の信用は失墜し取引のあった売掛先や銀行からの信頼は失われることとなるでしょう。

売掛先にしてみれば、詐欺行為を行った会社と今後も取引を続けたいと考えることはなく、取引銀行も資金を貸し付けたいとは考えないばずです。

取引を継続する場合でも、仕入れ先が信用取引に応じてくれず、資金繰りはかなり厳しいものとなるでしょう。

そもそも二重譲渡しなければ資金を調達できないほど厳しい状況にある会社であるため、経営破綻するまで時間の問題と取引を懸念されることになりかねません。

損害賠償請求される

ファクタリングによる二重譲渡で、詐欺罪や横領罪などの罪に問われることはもちろんのこと、ペナルティは刑罰だけにとどまらずファクタリング会社から損害賠償を請求されることになります。

その場合、買取代金を返せばよいだけでなく、訴訟にかかった弁護士費用も加算される可能性がありますが、弁護士費用は認容される損害賠償金額の10%です。

刑罰の対象となれば前科がつくこととなり、さらに損害賠償請求されれば事業を継続することは難しくなってしまいます。

事業を続けることが難しくなり、仮に経営者が自己破産することになったとしても、不正行為によりファクタリング会社がいろいろと主張すれば破産手続が難航する可能性もあります。

自己破産は本来借金を免除してもらう手続ですが、不正行為があれば借金免除(免責)が認められない「免責不許可事由」に該当する可能性も否定できないからです。

一時的に魔がさしてしまうことや何とか窮地を乗り越えたいという思いがあるとしても、ファクタリングの不正な申し込みは絶対にしないようにしてください。

まとめ

ファクタリング会社ではこの二重譲渡の被害を防ぐため、契約を結ぶ際には債権譲渡登記を行うこともめずらしくなりません。

架空の売掛債権を買い取ってしまわないために、売掛先の信用力を重視した審査も行われます。

ただ、本来、ファクタリングは中小企業などがスムーズに資金を調達できるためにできたサービスなので、その仕組みを利用して悪用することは利用する側のモラルの問題であり、行ってはいけない行為です。

仮に二重譲渡や架空債権などで資金を調達できたとしても、その後、ファクタリング会社が回収する段階になれば嘘が発覚し、代金の支払いもできず刑事告訴の対象となる可能性があります。

罪に問われ刑罰を受ければ一生消えることのない前科がつくこととなり、社会的な信用も失って事業も継続できなくなってしまうでしょう。

ファクタリングを利用するときには、一時的な誘惑にまけて罪に問われる不正行為を行わず、適正な方法で申し込むようにしてください。