社会保険料は労使折半で支払うため、会社負担の割合など理解しておくことが必要です。
人を雇用すれば会社負担の社会保険料も増えるため、事業継続に影響を及ぼさないとも言い切れません。
仮に社会保険料の会社負担を抑えようと未加入で対応した場合、その事実の発覚後には年金事務所に強制加入させられ、過去2年間の未納分の社会保険料を徴収されます。
社会保険料は給与だけでなく、賞与も徴収の対象となるため、大きなダメージとなる恐れがあるといえるでしょう。
そこで、社会保険料の会社負担割合について、計算方法や注意点、社会保険への未加入リスクを徹底解説します。
目次
社会保険料とは
「社会保険料」とは、雇用関係により加入する健康保険などに対する保険料です。
社会保険制度では、ケガ・病気・出産・障害・老齢・死亡・失業などの生活困難に陥る事態に遭遇した場合、一定の給付で生活を支援します。
その社会保険制度に対する保険料が社会保険料といえますが、以下の5つの保険料を支払います。
健康保険料 | 従業員とその扶養家族のケガ・病気・出産などで必要な医療費を補償する制度に対する保険料 |
介護保険料 | 要支援または要介護の認定を受けた方の利用する介護サービスに対する保険料 |
厚生年金保険料 | 年金制度に対する保険料 |
雇用保険料 | 雇用や生活の安定を補償するための制度に対する保険料 |
労災保険料 | 就業中または通勤中の事故によるケガや病気を対象とした制度に対する保険料 |
社会保険料とは?種類や計算方法・免除されるケースをわかりやすく解説
社会保険料の会社負担割合
社会保険料は、会社(事業主)と従業員(労働者)で労使折半により支払いますが、会社負担割合は以下のとおりです。
社会保険の種類 | 会社負担の割合 | 従業員負担の割合 |
厚生年金保険料 | 50% | 50% |
健康保険料 | 50% | 50% |
介護保険料 | 50% | 50% |
雇用保険料 | 事業者と労働者がそれぞれ負担(事業者の負担割合のほうが大きい) | |
労災保険料 | 100% | 0% |
健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料の納付期限は翌月の末日となっており、会社は従業員が負担する保険料を給与から徴収し、会社負担分と合わせて納めます。
雇用保険料は従業員負担分を給与から天引きし、1年1回、まとめて支払います。
社会保険料の計算方法は?負担割合や控除・ボーナスにおける対応を解説
社会保険料の計算方法
以下の5つの保険料を合わせて社会保険料といいます。
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 介護保険料
- 雇用保険料
- 労災保険料
それぞれの社会保険料の計算方法を説明します。
健康保険料
「健康保険料」とは、従業員とその扶養家族のケガ・病気・出産などで医療機関を受診したときなどにかかる医療費を補償する健康保険制度で支払う保険料です。
事業主と従業員がそれぞれ半分を負担するため、以下の計算式で算出できます。
健康保険料(給与) = 標準報酬月額 × 健康保険料率 会社負担分の健康保険料 = 標準報酬月額(または標準賞与額) × 健康保険料率 ÷ 2 |
なお標準賞与額は、毎年4月1日から翌年3月31日までの累計額573万円までが上限です。
健康保険の標準賞与額が年573万円を超えた場合、保険者へ「健康保険標準賞与額累計申出書」を提出しなければなりません。
申出書は従業員(被保険者)から年間賞与支給額が上限を超える旨の申告があった場合に会社が提出します。
標準賞与額の累計額が年573万円を超えたために申出書を提出した場合において、その後、同一年度内に賞与の支払いがあったときにはその都度、申出書を提出することが必要です。
申出書を提出すると、標準賞与額が訂正と、保険料の充当または還付処理が行われます。
全国健康保険協会のホームページ「都道府県毎の保険料額表」を参考にしてください。
介護保険料
「介護保険料」とは、要支援または要介護の認定を受けた方が、介護サービスを利用する介護保険制度で支払う保険料です。
健康保険と同様に、事業主と従業員がそれぞれ半分を負担するため、以下の計算式で算出できます。
介護保険料(給与) = 標準報酬月額 × 介護保険料率 会社負担分の介護保険料 = 標準報酬月額(または標準賞与額) × 介護保険料率 ÷ 2 |
「介護保険料率」は、加入する健康保険組合によって異なりますが、全国健康保険協会の「協会けんぽの介護保険料率」によると、2024年3月からの介護保険料率は1.60%です。
厚生年金保険料
「厚生年金保険料」とは、老後の生活に大きく関係する年金制度で支払う保険料です。
健康保険料や介護保険料と同じく、厚生年金保険料も事業主と従業員が折半して負担するため、以下の計算式で算出できます。
厚生年金保険料(給与) = 標準報酬月額 × 厚生年金保険料率 会社負担分の厚生年金保険料 = 標準報酬月額(または標準賞与額) × 厚生年金保険料率 ÷ 2 |
「標準賞与額」は、厚生年金保険では1か月あがり150万円までを上限としています。
協会けんぽの厚生年金保険料率に関しては、全国健康保険協会の都道府県ごと「令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)」を参考にしてください。
雇用保険料
「雇用保険料」とは、労働者の雇用や生活を守るための雇用保険制度で支払う保険料です。
事業主の負担割合のほうが大きいものの、事業主と従業員がそれぞれ負担することが必要であるため、以下の計算式で算出できます。
雇用保険料(給与) = 毎月の給与支給額 × 雇用保険料率 雇用保険料(賞与) = 賞与支給額 × 雇用保険料率 |
「雇用保険料率」は年度や事業の種類や内容で異なります。
最新の雇用保険料率は、厚生労働省のホームページ「令和6年度の雇用保険料率について」で確認してみましょう。
社会保険料の標準報酬月額とは
社会保険料を計算で使用する「標準報酬月額」とは、社会保険料を決めるときに基準となる額であり、給与などを一定の幅で区分した等級へあてはめた金額です。
具体的には、従業員(被保険者)の給与1か月分の報酬を、一定範囲ごとに等級で区分します。
さらに健康保険50、厚生年金保険32の分類に段階的に割り当てられる仕組みとなっています。
標準報酬の対象は、基本給や諸手当など労働の対価として現金や現物で支給される報酬であり、一時的な収入は対象に含まれません。
標準報酬月額の対象である賃金と、対象に含まれない賃金は以下のとおりです。
標準報酬月額の対象となる賃金 |
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標準報酬月額の対象に含まれない賃金 |
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標準賞与額における「賞与」とは、名称の種類に関係なく、従業員が労働の対償として受け取る年3回以下で支給されるものです。
年4回以上支給されるケースにおいては、標準報酬月額の対象となることは理解しておいてください。
標準報酬月額とは?社会保険料の計算方法や決定・変更のタイミングを解説
社会保険に加入義務のある事業所とは
社会保険に加入義務がある事業所とは、主に法人です。
法人の場合、必ず社会保険へ加入しなければならない強制適用事業所となります。
なお、法人とは株式会社や合同会社など全ての法人であり、事業主や従業員の意思に左右されることなく、社会保険への加入が義務付けられています。
法人以外にも、個人事業主で常時5人以上の労働者を雇っている場合は強制適用事業所となり、社会保険へ加入しなければなりません。
ただし個人事業主の社会保険加入に関しては、以下の2つに注意しましょう。
- 従業員は社会保険への加入義務があるものの、個人事業主は社会保険へ加入できない
- 常時5人以上の従業員がいる場合でも、以下の業種には加入義務はない
- 農林水産業
- 飲食業
- 旅館など宿泊業
- クリーニング・理美容・銭湯などサービス業
- 映画などの娯楽業
- 法律・税理士事務所などの法務業
社会保険料の計算における注意点
社会保険料を計算するときには、以下の6つに注意してください。
- 賞与の取扱いに注意
- 端数処理に注意
- 従業員の年齢に注意
- 料率改定に注意
- 免除期間に注意
- 雇用保険料の日割計算に注意
それぞれの注意点を説明します。
賞与の取扱いに注意
社会保険料の計算においては、「賞与」の取扱いに注意しましょう。
賞与も社会保険の対象となりますが、すべてのケースではなく、年3回以下で支給される場合です。
年4回以上、賞与が支給される場合には、社会保険で賞与に係る報酬として扱います。
そのため標準賞与額ではなく標準報酬月額の対象となり、保険料の計算方法も変わるため注意してください。
端数処理に注意
社会保険料の計算においては、端数処理に注意しましょう。
健康保険料や厚生年金保険料の計算において、1円未満の端数が出たときには以下のルールで処理します。
給与から控除する従業員の保険料 | 50銭以下は切り捨て、50銭を超える場合、1円へ切り上げ |
現金で支払われる従業員の保険料 | 50銭未満は切り捨て、50銭を超える場合、1円へ切り上げ |
会社負担の保険料(合計金額) | 1円未満の端数切り捨て |
端数処理は従業員ごとではなく、すべての従業員の保険料を合算した後で行います。
なお、端数処理の金額は日本年金機構が納入告知額として請求することになり、従業員負担分の合計金額を差し引いて会社負担分を計算します。
また、雇用保険も同じ考え方で端数処理を行いますが、労使間の慣習的なルールがあればそのルールで処理しても問題はありません。
従業員の年齢に注意
社会保険料の計算においては、従業員の年齢に注意しましょう。
介護保険制度における介護保険料は、従業員が40歳に達したときから徴収がスタートします。
そのため、従業員が40歳になる誕生日の前日が属する月から介護保険料を徴収してください。
徴収は従業員が65歳になるまで続くものの、65歳に達した時点で市区町村が徴収する第1号被保険者となり、給与からの控除は不要となります。
料率改定に注意
社会保険料の計算においては、料率の改定に注意しましょう。
社会保険料率は定期的に見直しされるため、最新の情報を常に入手しておかなければ、気がつかない間に変更されている恐れもあります。
健康保険組合などの保険者や、年金事務所の最新情報を定期的に確認するようにしましょう。
免除期間に注意
社会保険料の計算においては、免除期間に注意しましょう。
産前産後休業期間の健康保険料と厚生年金保険料は、被保険者の産前産後休業期間中に事業主から申し出ることにより、事業主と従業員(被保険者)の両負担が免除対象となります。
免除期間中も資格を失うことはありません。
育児・介護休業法による満3歳未満の子の養育で取得する育児休業等期間中も同様です。
産前産後休業期間や育児休業等期間の開始月から、終了日翌日が属する月の前月までが対象となる期間とされています。
ただし育児休業等期間による免除は、休業開始月に14日以上の育児休業を取得したなど、一定条件を満たすことが必要です。
なお、雇用保険料と労災保険料については、給与額に応じて保険料を計算します。
そのため休業中で給与の支給がなければ、保険料の負担はありません。
雇用保険料の日割計算に注意
社会保険料の計算においては、雇用保険料の日割計算に注意しましょう。
日割計算があるのは雇用保険料だけで、健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料は末日に資格喪失していれば該当月の社会保険料負担はありません。
労災保険料は労災保険料率を乗じた保険料が発生し、雇用保険料は支給額に保険料率を掛けて計算します。
そのため雇用保険料に関しては支給額が日割りになる場合もあるため、雇用保険料以外の社会保険料は退職日の翌日が属する月の前月分まで保険料負担が発生するといった違いに注意しましょう。
なお、社会保険料は当月分の給与から、前月分の保険料を徴収します。
そのため退職で翌月の給与から社会保険料が天引きされない場合、退職月の給与から2か月分保険料を控除することが必要です。
社会保険未加入のリスク
会社経営をしていれば社会保険への加入義務があり、個人経営の事業所でも条件を満たす場合には、社会保険へ加入する義務が生じます。
社会保険へ加入しなければならないのにもかかわらず、未加入の場合には以下のリスクを負うことになります。
- 懲役や罰金のペナルティを受ける
- 事業継続が困難になる
- 遡り請求で資金繰りが厳しくなる
- ハローワークの手続に支障をきたす
どのようなリスクを負うのか説明します。
懲役や罰金のペナルティを受ける
社会保険の加入義務があるのに未加入の場合、懲役や罰金のペナルティを受けます。
加入義務のある対象事業所の場合、年金事務所から通知が届きます。
しかし通知に応じず未加入の状態を続ければ、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金のペナルティの対象となるため注意してください。
事業継続が困難になる
社会保険の加入義務があるのに未加入の場合、事業継続が困難になります。
年金事務所から加入に関する通知が届いているのに放置していると、罰金や懲役の対象になることはもちろんのこと、追徴や延滞金を支払わなければなりません。
社会保険料の納付に関する指導は年々厳しくなっているため、先延ばしにするほど大きなペナルティを受けることになり、事業継続が困難になる場合もあるため注意してください。
遡り請求で資金繰りが厳しくなる
社会保険の加入義務があるのに未加入の場合、遡り請求で資金繰りが厳しくなります。
支払うべき社会保険料は、2年間遡って追徴されます。
延滞金も上乗せで請求されるため、加入を先延ばしにすれば負担額が増えてしまい、資金繰りが厳しくなると考えられます。
ハローワークの手続に支障をきたす
社会保険の加入義務があるのに未加入の場合、ハローワークの手続に支障をきたします。
人を雇用するときにハローワークで求人を出したくても、手続をしてもらえなくなる恐れがあります。
また、厚生労働省関連の助成金対象から外される可能性もあるため、加入義務がある場合には未加入の状態のまま放置しないようにしてください。
まとめ
社会保険料は労使折半で支払うため、会社負担割合は理解しておくことが必要です。
人を多く雇用すれば、会社負担の社会保険料も増えてしまいます。
社会保険への加入義務があるのにもかかわらず、未加入の状態を続ければいずれ事実が発覚し、大きなペナルティを受けることになるため注意してください。
なお、社会保険料は給与だけでなく賞与も対象となるため、社会保険料の種類によって異なる計算式など間違わないように注意しましょう。
社会保険は公的保険制度であり、正しく納めることで従業員それぞれが制度を活用し、生活の安定や支援につなげることができるため、遅れず支払うことが大切です。