賞与は給与と同様に、社会保険料の対象です。
そのため従業員に賞与を支給する場合、徴収する社会保険料の計算が必要ですが、給与とは内容が異なります。
さらに賞与を支給する場合でも差し引かないケースや、支給回数によって社会保険料の計算方法など変わる場合などがあるため、ルールを理解しておくことが必要です。
そこで、賞与と社会保険料の関係や、計算方法と差し引かないケースなどをわかりやすく解説します。
目次
賞与と社会保険料の関係
「社会保険料」とは、事業者と従業員の雇用関係を通じて加入する保険の保険料を、双方折半で支払う保険料です。
「賞与」とは、毎月定期的に支払われる給与と別で支給されるお金であり、「ボーナス」や「特別手当」「決算手当」などと呼ばれることもあります。
仕事上のケガや病気による失職・老齢・労働災害などに備えて、公的な保険制度である社会保険に仕事をする上での色々なリスクに備えるための公的な保険制度が社会保険ですが、以前までは給与のみから社会保険料が差し引かれていました。
給与だけでなく賞与から徴収されるようになったのは、「特別保険料」が廃止されたことと、給与と賞与額の調整で企業間の社会保険料が不公平になるからです。
社会保険料は給与天引きでのみ徴収だったものの、賞与からは「特別保険料」という名目の社会保険料が差し引かれていました。
しかし特別保険料は社会保険料の厚生年金から1%徴収する形式になっており、事業者と従業員の折半であれば従業員が負担する割合は0.5%となります。
しかし厚生年金保険料は給与天引き分と異なり、賞与分は従業員本人の年金に反映されず、高齢者の受け取る年金に充てられていました。
そのため2000年の法改正で特別保険料は廃止となり、給与・賞与の合計額を月数で割り計算する「総報酬制」へと変更されています。
さらに事業者が社会保険料の負担を抑えようと、毎月の給与は減らして賞与を増やすという支払い方法を取り入れるケースもありました。
しかし合法的な節税方法だったとはいえ、事業者間が公平でなくなることが問題視されたため、総報酬制が導入されたともいわれています。
賞与から徴収する社会保険料の種類
賞与から徴収する社会保険料は、社会保険の種類で以下に分類されます。
健康保険料 | 従業員とその扶養家族のケガ・病気・出産で必要な医療費を補償する健康保険制度に対する保険料 |
介護保険料 | 要支援認定または要介護認定を受けた方の介護サービス利用の自己負担を補填するための介護保険制度に対する保険料 |
厚生年金保険料 | 老後の生活の資金が支給される年金制度に対する保険料 |
雇用保険料 | 労働者の雇用・生活安定に必要な資金が支給される雇用保険制度に対する保険料 |
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賞与から徴収する社会保険料の計算方法
賞与から徴収する社会保険料は、毎月の給与から天引きする社会保険料と異なり、標準報酬の扱いにはなりません。
そのため社会保険料の計算は、給与の算出方法とは以下のとおり異なります。
- 健康保険料の計算方法
- 介護保険料の計算方法
- 厚生年金保険料の計算方法
- 雇用保険料の計算方法
それぞれ説明します。
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健康保険料の計算方法
賞与から徴収する健康保険料の計算方法は、以下のとおりです。
健康保険料 = 標準賞与額 × 健康保険料率 ÷ 2 |
標準賞与額は、賞与支給額を1,000円単位にします。
所得税控除前の賞与支給額の1,000円未満を切り捨てた金額が標準賞与額ですが、健康保険料は会社と従業員の折半です。
健康保険料率は、給与と同じ割合であり、たとえば全国健康保険協会(協会けんぽ)であれば都道府県別に定められている率となります。
健康保険料の計算で使用する標準賞与額には上限金額があり、4月1日から3月31日までの年間累計額573万円が上限です。
詳しくは、全国健康保険協会(協会けんぽ)の「標準報酬月額・標準賞与額とは?」を参考にしてください。
介護保険料の計算方法
賞与から徴収する介護保険料の計算方法は、以下のとおりです。
介護保険料 = 標準賞与額 × 介護保険料率(8.0/1,000) |
従業員の年齢が40~64歳までの場合は介護保険料を徴収することが必要となります。
介護保険料率は健康保険組合によって異なるものの、たとえば全国健康保険協会(協会けんぽ)であれば全国一律です。
詳しくは、全国健康保険協会の「協会けんぽの介護保険料率について」を参考にしてください。
厚生年金保険料の計算方法
賞与から徴収する厚生年金保険料の計算方法は、以下のとおりです。
厚生年金保険料 = 標準賞与額 × 厚生年金保険料率(91.5/1,000) |
厚生年金保険料率は18.3%(従業員負担分9.15%)となっており、賞与から徴収する厚生年金保険料は標準賞与額に厚生年金保険料率を乗じて算出します。
なお、厚生年金保険料の計算における賞与額の上限金額は1か月あたり150万円までとされています。
詳しくは、日本年金機構の「厚生年金保険の保険料」を参考にしてください。
雇用保険料の計算方法
賞与から徴収する雇用保険料の計算方法は、以下のとおりです。
雇用保険料 = 賞与支給額 × 雇用保険料率(従業員負担分) |
雇用保険料は、賞与総支給額に以下の雇用保険料率(従業員負担分)を乗じて算出します。
従業員負担分 | 会社負担分 | 雇用保険料率(2024年(令和6年)4月1日~) | |
一般の事業 | 6/1,000 | 9.5/1,000 | 15.5/1,000 |
農林水産・清酒製造の事業 | 7/1,000 | 10.5/1,000 | 17.5/1,000 |
建設の事業 | 7/1,000 | 11.5/1,000 | 18.5/1,000 |
上記で1円未満の端数が生じた場合は、50銭以下は切り捨て、50銭1厘以上は切り上げとなります。
詳しくは、厚生労働省の「雇用保険料率について」を参考にしてください。
賞与から社会保険料を差し引かないケース
賞与を支給する場合、必ずしも社会保険料を徴収しなければならないわけではありません。
たとえば以下のケースにおいては、賞与から社会保険料を差し引きません。
- 産前産後休業・育児休業中の場合
- 賞与支給月(末日以外)の退職の場合
- 標準賞与額の上限を超えた場合
それぞれどのようなケースか説明します。
産前産後休業・育児休業中
賞与から社会保険料を差し引かないケースとして、従業員が産前産後休業・育児休業中の場合が挙げられます。
産前産後休業や育児休業中は、年金機構に申請すると、社会保険料が免除される制度があります。
産前産後休業・育児休業中は、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料が労働者と事業者のどちらの負担分も免除され、休業中に賞与が支給された場合も免除申請していれば免除対象です。
ただし雇用保険料は賃金に対して発生するため、休業中でも給与や賞与の支給があれば、支払うことが必要となります。
賞与支給月(末日以外)の退職
賞与から社会保険料を差し引かないケースとして、従業員の退職が末日以外の賞与支給月である場合が挙げられます。
厚生年金や健康保険から脱退した日の翌日が「資格喪失日」で、脱退月が「資格喪失月」となります。
被保険者資格喪失日(退職日翌日)の前月分まで社会保険料の徴収があるため、賞与支給月の末日より前の退職であれば、退職月の社会保険料は徴収対象に含まれません。
退職前に支払った賞与についても、支給日と資格喪失月で社会保険料の対象になるか変わるため注意してください。
雇用保険料は、賞与総支給額に応じた支払いとなるため、退職日のタイミングに関係なく負担が必要です。
標準賞与額の上限を超えた場合
賞与から社会保険料を差し引かないケースとして、社会保険料を計算するときの標準賞与額の上限を超えている場合が挙げられます。
標準賞与額は、以下のとおり上限額があります。
健康保険・介護保険の上限 | 毎年4月1日〜翌年3月31日の1事業年度の累計額573万円(上限超過部分は標準賞与額を0円とみなし、標準賞与額を一律573万円で計算) |
厚生年金保険 | 1か月あたり150万円(同月に2回以上の支給は合算) |
健康保険・介護保険で累計額が573万円を超えた場合、管轄の保険者に「基準賞与額累計申出書」を提出してください。
年度途中の転職などにおいては、健康保険料・介護保険料の累計は保険者単位とします。
そのため転職者の前職勤務先と現在の勤務先が同じ保険者の場合、転職前に支払われた標準賞与額を累計することが必要です。
賞与支給の同月に資格喪失する従業員がいる場合、累計額の計算の際には、資格喪失日の前日までに支給されたすべての賞与を含みます。
賞与支給における注意点
賞与支給においても社会保険料の徴収は必要といえますが、以下の4つには注意しておきましょう。
- 同月2回以上の賞与支給
- 年4回以上の賞与支給
- 必要な提出書類・届出
- 雇用保険料の年度末精算
それぞれ注意点を説明します。
同月2回以上の賞与支給
同月に2回以上賞与を支払った場合、合算した賞与額から1,000円未満を切り捨てた額が「標準賞与額」となります。
1回分ずつ計算すると、徴収するべき保険料を正確に計算できなくなるため注意してください。
年4回以上の賞与支給
就業規則や賃金規程により、年4回以上の賞与を支給する場合は、社会保険上、給与と同じ報酬の扱いです。
そのため毎年7月の算定基礎届の提出(定時決定)で、毎月の給与と標準報酬月額に反映されます。
ただし年4回以上の賞与支給とみなされるのは、支給されるお金が同じ性質である場合です。
仮に通常の賞与が年3回で、業績に応じて支払われる決算賞与年1回の場合は、年4回以上の賞与支給には該当しません。
また、毎年7月2日以降に賞与の諸規定を新設した場合、年4回以上の賞与支給に関する客観的な定めがあっても、次期標準報酬月額の定時決定による標準報酬月額が適用されるまで賞与として扱います。
必要な提出書類・届出
従業員に賞与を支給する場合、賞与明細書を発行することが必要です。
賞与の総支給額と差し引かれる額、差引支給額を記載しましょう。
また、賞与支給日から5日以内に年金機構へ「被保険者賞与支払届」を提出してください。
賞与支払い予定月にすべての従業員に賞与を支給しなかったケースにおいては、「賞与不支給報告書」を提出することも必要です。
雇用保険料の年度末精算
社会保険料は、納付期限までに従業員と事業者の負担分をまとめて、納付対象月の翌月末日までに支払います。
健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料は定時決定で保険料が見直されるものの、雇用保険料は年度当初に概算申告・納付します。
そのため翌年度の確定申告で精算することになるため、給与と賞与を合算した額を年度末に精算することが必要です。
まとめ
従業員に支給する賞与も社会保険料を徴収することが必要です。
ただし毎月支払う給与の社会保険料とは異なる計算方法であることや、すべての賞与支給において社会保険料が発生するわけではないため注意しましょう。
計算で用いる料率の変更や、自治体による保険料率の違いなどにも注意してください。