事業撤退を判断する基準は、主に業績が上がらないことなどが理由です。
成功を信じて事業をスタートさせたものの、すべてが成功するわけではなく、市場の変化や見込み違いなどで撤退を決断することもあるでしょう。
ただ、間違った基準で判断してしまうと、まだ売上や利益を伸ばすことができたということにもなりかねません。
そこで、事業撤退を決める判断基準や継続を断念する理由、流れなどについてわかりやすく解説していきます。
目次
事業撤退とは
「事業撤退」とは、市場で優位性を失った事業から手を引くことです。
採算が取れない事業を停止し、損失を防ぐことを目的とします。
たとえば特定の事業についての資産や権利を包括的に譲渡する方法などが挙げられますが、「撤退」への捉え方で次の2種類に分けることができます。
- 積極的撤退
- 消極的撤退
それぞれ説明していきます。
積極的撤退
「積極的撤退」とは、成長段階で利益をもたらしている事業を戦略的に撤退することです。
収益化に成功している事業なら、撤退する必要はないといえます。
しかし注目度の高い市場などで、急速に競合が増えているときや、仕入値が高騰し続けている場合などは近い将来「赤字」に転落しないともいえません。
そこで、事業領域を最適化するために、売上や利益は順調な場合でも敢えて戦略的に手放します。
衰退しない間に終わらせる「有終の美」を飾る方法でもあり、未来に向けた部分的な撤退案です。
収益に問題を抱えていない事業の撤退は覚悟が必要であるものの、赤字転落する前に終えることで、会社の成長や発展にもつながると考えられます。
消極的撤退
「消極的撤退」とは、不景気や競合企業の台頭、赤字経営などネガティブな理由で事業を受動的に撤退させることです。
事業計画や準備が十分でなかったため、やむなく撤退に追い込まれた状態といえます。
事業を立て直そうと多額の資金を投入しているケースにおいても、損切り覚悟での撤退が求められます。
また、事業を継続させることへ尽力してきた従業員や関連会社への対応などに追われる可能性もあります。
撤退後の会社経営は不安定になることを承知の上で、決断を急ぐことも必要です。
事業撤退の理由
成功すると信じて立ち上げた事業を撤退することは勇気のいることですが、一般的な事業撤退は次の理由で実施されます。
- 費用対効果が見込めない
- 債務超過を解消できない
- 競合他社に勝てない
- 不景気から抜け出せない
それぞれどのような理由によるものか説明していきます。
費用対効果が見込めない
事業撤退の理由として、採算が取れず費用対効果が見込めないことが挙げられます。
抱える仕事量が多いのに対し利益が出ない場合や、事業期間が長期に及ぶためコストパフォーマンスの悪いケースなどは、継続しても負担ばかりが増えるため撤退を決断することになります。
債務超過を解消できない
事業撤退の理由として、負債を多く抱えており、債務超過を解消できないことが挙げられます。
債務超過とは、資産よりも負債が上回っており、所有する資産をすべて現金化しても債務を払いきれない状態です。
巨額の赤字や負債を出し続けている事業は、今後も売上や利益を見込めない可能性が高いため、徹底したほうがよいと判断できます。
競合他社に勝てない
事業撤退の理由として、市場において同業種の競合他社が台頭し、勝てないことが挙げられます。
競合他社との差別化を図り、顧客ニーズに対応できる強みを発揮できなければ、事業が衰退してしまう可能性があります。
勝つ見込みがない場合には、撤退を決断することになるでしょう。
不景気から抜け出せない
事業撤退の理由として、バブル崩壊やリーマンショックなどの不景気から抜け出せないことが挙げられます。
当時よりも景気は回復したともいわれているものの、実際にはモノが売れない状態が続き、回復傾向といえない業界は多く存在します。
新型コロナウイルス感染症が流行したことや、戦争などの影響で、事業を撤退せざるを得ない企業も少なくありません。
事業撤退の判断基準
事業の撤退はすぐに決断できることではないものの、迷っている間に事業だけでなく会社経営そのものも続けることができなくなる可能性もあります。
そこで、事業を撤退するべきか迷ったときには、次の判断基準をまずは確認してみましょう。
- 貢献利益
- 達成度(KPI)・重要目標達成指標(KGI)
- 投資回収計画(PL)
- SWOT分析
- プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)
それぞれ説明していきます。
貢献利益
事業撤退の判断基準として「貢献利益」が挙げられます。
「貢献利益」とは、個別の事業で利益が発生しているか判断する際の基準であり、以下の計算式で算出できます。
貢献利益=売上高–変動費–直接固定費 |
数値がマイナスの場合、会社へ貢献できていないと判断できるため、撤退も検討しましょう。
ただし固定費削減などで赤字解消が見込める場合には、新たな対策で改善を続けることも考えられるでしょう。
達成度(KPI)・重要目標達成指標(KGI)
事業撤退の判断基準として「達成度(KPI)」や「重要目標達成指標(KGI)」が挙げられます。
「達成度(KPI)」とは「重要業績評価指数」であり、事業の進捗状況や最終目標の達成度やズレを客観的に観測する指標です。
「重要目標達成指標(KGI)」は、最終目標の達成度合いを測る指標であり、売上高・成約数・利益率などが該当します。
「重要目標達成指標(KGI)」が最終的なゴールであるのに対し、「達成度(KPI)」は中間ゴールともいえるため、どちらも確認した上での事業撤退の判断が必要です。
投資回収計画(PL)
事業撤退の判断基準として「投資回収計画(PL)」が挙げられます。
「投資回収計画(PL)」とは、投資した資本が回収されるまでの期間に関する計画です。
計画した期間での回収が達成されない場合、事業を撤退するべきと判断できます。
投資回収期間の目安は会社の規模や資本力によって異なり、たとえば中小企業の投資回収期間の目安は2年以内とされているものの、資本力に不安があれば予定より長引く可能性もあります。
また、数十億単位の大型事業における投資を2年以内で回収することは難しいため、返済も含めた事業活動のフリーキャッシュフローを1~2年以内でプラスした年数を目安にしましょう。
設備投資の投資回収期間とは?目安や計算式・採算性の評価方法を解説
SWOT分析
事業撤退の判断基準として「SWOT分析」が挙げられます。
「SWOT分析」とは、内部と外部のどちらの環境も見直し、状況を明確にして具体的な戦略を導き出す経営分析手法です。
- 内部環境「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」
- 外部環境「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」
上記を洗い出すことで、事業の撤退を見極める基準にできます。
プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)
事業撤退の判断基準として「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)」が挙げられます。
「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)」とは、市場の成長性と自社の市場シェアの2つの観点で戦略を分析する手法です。
上記の2つを高低で評価し、組み合わせた4つの評価結果に分け、評価結果を以下の表にあてはめます。
市場シェアが広い | 市場シェアが狭い | |
市場成長性が高い | 花形(Star) | 問題児(Question Mark) |
市場成長性が低い | 金のなる木(Cash Cow) | 負け犬(Dog) |
花形 | 成長市場で十分市場シェアを確保できている事業(場競争が激化する可能性があるため、継続した投資が望ましい) |
問題児 | 市場シェアは不十分であるものの戦略次第で花形になる可能性がある事業(大胆な投資など重要な検討が必要) |
金のなる木 | 成熟期にある市場で、十分な市場シェアを誇る事業(優秀な収益源であるものの成長性は望めず今以上の投資は必要ない) |
負け犬 | 市場の成長性が期待できず市場シェアも低い事業(収益向上は望めないため追加投資しても意味がなく、事業撤退を検討したほうがよい) |
事業撤退の流れ
事業撤退を決断した後は、スムーズに手続することが必要ですが、次の3つの流れで進めていきます。
- 関係者の選定
- 撤退事業の範囲の決定
- 撤退方法の選択
それぞれの流れを説明していきます。
①関係者の選定
事業撤退を決断した後は、手続を行う関係者を選定しましょう。
従業員や役員、取引先にも影響を与えることになるため、関係悪化の原因になる可能性も考えられます。
関係が悪化したことで情報が漏洩するリスクもあるため、事業撤退に関わる関係者はできるだけ人数を抑え、業務や状況を理解している人物を選定します。
②撤退事業の範囲の決定
事業撤退に関わるメンバーを選んだ後は、どの事業を取りやめるのか、範囲を検討します。
不採算事業に関連する部署・関連会社・従業員を抜き出し、資産や負債など財務現状も正確に把握しましょう。
汎用性のある資産などは、他の継続事業で使用できるか検討することも必要です。
③撤退方法の選択
撤退する事業の範囲を決めたら、どのスキームで取りやめるのか方法を選びましょう。
事業撤退の方法は主に次の3つです。
- 事業譲渡
- 資産譲渡
- 解散
それぞれ説明します。
事業譲渡
「事業譲渡」とは、特定事業に関する資産や権利を包括的に売却する事業撤退の方法です。
譲渡先が事業に関する魅力を感じていれば、まとまった売却利益を獲得できる反面、撤退を望む立場から値切られてしまうおそれもあります。
撤退事業は失敗と捉える買い手が多いため、好条件で買い取利してくれるケースは多くないと留意しておきましょう。
資産譲渡
「資産譲渡」とは、事業用の資産を売却することです。
売却によって得ることのできる利益は、事業譲渡と比べると少なめではあるものの、利益や費用を度外視してでも迅速な撤退を希望するときは有効といえます。
ただし中古の設備を有している場合などは、回収費用が発生する可能性もあるため注意してください。
解散
「解散」とは、法人格を消滅させる手続です。
単一事業のみ営む会社の場合、解散する方法による事業撤退も選ぶことができます。
解散後も会社は存続しているため、消滅させるためには、株主総会による特別決議などを通じた清算手続などが必要となります。
交渉に時間はかからないものの、登録免許税・官報公告費用・専門家への報酬などは発生します。
会社が消滅してしまうことや、撤退におけるコストも多くかかるため、他の方法を選ぶことができない場合の最終手段と認識しておきましょう。
事業撤退で発生する費用
事業を撤退すると決断した際には、素早く行動することでかかる費用を抑えることができます。
ただし次の費用の発生は避けられない可能性があるため、注意してください。
- 解約違約金
- 原状回復費用
それぞれの費用について説明していきます。
解約違約金
事務所や店舗を賃貸契約していた場合には、契約内容によるものの、契約終了期間到達前の解約で解約違約金が発生する可能性があります。
残存期間は賃料相当分を支払う必要がある場合、解約においてコストが発生することは留意しておきましょう。
また、初期費用を抑えるためにリース契約を結んでいるケースでは、中途解約ができません。
中途解約においては残りのリース料を一括負担することが必要となるため、事業撤退で多くの費用を支払うことになるでしょう。
原状回復費用
事務所や店舗を賃貸契約で利用していた場合、撤退の際には入居前と同じ状態に戻す原状回復義務が発生します。
経年劣化や通常損耗による損傷などは原状回復する必要はありません。
しかし内装工事を行っていれば元に戻すことが必要であるため、改修費用が必要です。
まとめ
事業撤退を決断することは簡単なことではありません。
何を基準に決めればよいか迷ったときには、
- 貢献利益
- 達成度(KPI)・重要目標達成指標(KGI)
- 投資回収計画(PL)
- SWOT分析
- プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)
などを目安にするとよいでしょう。
また、事業撤退の妥当性は、たとえば見かけだけの赤字ではないかなど詳しい分析も必要です。
他の事業への収益貢献なども確認し、創業期や成長期の初期段階であれば黒字化が見込める可能性も踏まえて決断してください。
反対に事業が衰退期にある場合には速やかな事業撤退を進める決断も必要といえます。
事業撤退においては一定の費用も発生することも踏まえ、今後、さらに損失を膨らまさないためにも迅速な判断が求められます。