サプライチェーン・ファイナンスとは、発注企業主導の電子決済サービスです。
納入企業に支払う現金や手形を、SPC(特別目的会社)に対する電子記録債権による支払いに替えて一本化することで、支払い事務を効率化できます。
ファクタリングは、専門業者が売掛債権を買い取ることで現金化するサービスであるため、サプライチェーン・ファイナンスとは異なる仕組みです。
そこで、サプライチェーン・ファイナンスとファクタリングの違いについて詳しく説明していきます。
目次
サプライチェーンとは
「サプライチェーン」とは、製品を製造するときに必要な原材料や部品の調達から販売までの一連の流れのことです。
自社だけでなく協力会社など他社をまたいだモノの流れであるため、社内業務だけでなくモノの製造から販売までのフロー全体を捉えます。
なお、サプライチェーンを管理し、製品開発・製造・販売を最適化する手法をサプライチェーン・マネジメントといいます。
サプライチェーン・ファイナンスとは
「サプライチェーン・ファイナンス」とは、部品や原材料の供給網などサプライチェーンに金融機関が絡み、売掛債権を購入するなどで製品製造から販売までの一連の流れにおける資金面での不安を解消する金融サービスです。
製造から販売までのサプライチェーン全体に資金供給することにより、関係する企業全体の資金繰りを改善できます。
サプライチェーン・ファイナンスでは、金融機関が商品や製品の供給元(サプライヤー)の信用力を評価し、バイヤーに代わって代金を立て替えて払います。
金融機関はリスクに応じた手数料を設定し、代金を割り引きすることで利益を得る仕組みです。
サプライチェーン・ファイナンスによる証券化商品なども組成されているため、機関投資家による投資も拡大しつつある状況といえるでしょう。
そこで、サプライチェーン・ファイナンスについて次の3つを解説していきます。
- 目的
- 仕組み
- ファクタリングとの違い
目的
サプライチェーン・ファイナンスの目的は、売掛債権を支払い期日前に現金化することです。
手元に現金がない場合でも、受注者(サプライヤー)に対して期日前に支払いができます。
期日前の支払いを可能にすることで、サプライチェーンを維持することができ、売掛先も不安を抱えず商品を販売できます。
売掛債権の支払いサイトを短期化すればよいとも考えられますが、売掛先の現金が潤沢にあるわけではありません。
そのため金融機関が買掛金を立て替え、発生した手数料を買掛先に負担してもらうことがサプライチェーン・ファイナンスの目的といえます。
仕組み
商取引では、受注者(サプライヤー)が売掛先(バイヤー)に商品やサービスを販売し、その後、販売代金を請求して期日に支払ってもらいます。
しかしサプライチェーン・ファイナンスでは、以下の流れで手続が進みます。
- 受注者(サプライヤー)が売掛先(バイヤー)に商品を販売し、商品代金の支払いについては30~180日後と約束をする
- 受注者(サプライヤー)は金融機関に承認された請求書を渡し、債権額に応じた金額を金融機関から受け取る
- 売掛先(バイヤー)は指定期日に金融機関へ商品代金を支払う
ファクタリングとの違い
ファクタリングは請求書を発行し、まだ入金されていない売掛債権を売却することで、前倒しで受け取ることができるサービスです。
サプライチェーン・ファイナンスも別名「リバース・ファクタリング」と呼ばれているためファクタリングの1つとして扱われることはあるものの、実際には「でんさい」を使った疑似ファクタリングであるため通常のファクタリングとは異なります。
なお、ファクタリングとの違いとして挙げられるのは主に次の4つです。
- 利用目的の違い
- 主導者の違い
- 契約形態の違い
- 利用方法の違い
それぞれの違いについて説明していきます。
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利用目的の違い
通常のファクタリングは売掛債権を現金化することが目的です。
しかしサプライチェーン・ファイナンスは、債務を立替払いしてもらうことが目的となっています。
主導者の違い
通常のファクタリングの主導者は受注者(サプライヤー)です。
手元のお金が少ないときなどに、売掛債権を保有している受注者(サプライヤー)がファクタリング会社に買い取りを依頼し、現金化します。
対するサプライチェーン・ファイナンスは、売掛先である発注者(バイヤー)が期日に支払いできないことに備えて、立て替えで支払ってもらうように金融機関に依頼します。
同時に期日または後日に立て替えてもらった分を支払うことを約束するため、発注者(バイヤー)主導で実施することが違いです。
契約形態の違い
通常のファクタリングは、ファクタリング会社が売掛債権を買い取り、その代金を利用者に支払う債権の譲渡契約によるサービスです。
しかしサプライチェーン・ファイナンスは、低金利で資金を貸し付ける融資契約を結ぶため、通常のファクタリングと契約形態が異なります。
利用方法の違い
通常のファクタリングは、受注者(サプライヤー)とファクタリング会社の2社で取引する2社間ファクタリングと、売掛先(バイヤー)も加わる3社間ファクタリングがあります。
対するサプライチェーン・ファイナンスは3社間ファクタリングのみで、売掛先(バイヤー)主導で行います。
ただし売掛先単独で動くことはできず、受注者(サプライヤー)の同意も必要です。
また、サプライチェーン・ファイナンスは融資とみなされるため、銀行業や貸金業許可を取得しているファクタリング会社のみで利用できます。
さらに「でんさいネット」によるサプライチェーン・ファイナンスは、受注者(サプライヤー)と売掛先(バイヤー)の双方が「でんさいネット」に加入しなければなりません。
サプライチェーン・ファイナンスのメリット
サプライチェーン・ファイナンスを利用することによるメリットは、次の2者により異なるます。
- 発注側のメリット
- 受注側のメリット
それぞれどのようなメリットがあるのか説明していきます。
発注側のメリット
発注側(バイヤー)のサプライチェーン・ファイナンス利用のメリットは、金融機関が受注側(サプライヤー)に支払いをしてくれることです。
これにより、発注側(バイヤー)は受注側(サプライヤー)に対する支払いの期日を先延ばしできます。
受注側のメリット
受注側(サプライヤー)のサプライチェーン・ファイナンス利用のメリットは、発注側(バイヤー)からの売掛債権の回収を前倒しできることです。
債権が回収できず、貸し倒れが発生すれば黒字倒産リスクも高まります。
サプライチェーン・ファイナンスで手数料が発生したとしても、1~5%と低めであるため、負担も抑えることができます。
サプライチェーン・ファイナンスのデメリット
サプライチェーン・ファイナンスは発注者と受注側の2つの立場によって得ることのできるメリットは異なります。
また、それぞれの立場でのデメリットにも留意が必要です。
そこで、次の2つに分けて発注側と受注側のデメリットを説明していきます。
- 発注側のデメリット
- 受注側のデメリット
発注側のデメリット
受注側(サプライヤー)のサプライチェーン・ファイナンス利用のデメリットは、取り扱っている金融機関が少ないため利用しにくいことです。
「でんさいネット」に加入していなければ利用できないため、普段は取引のない金融機関で「でんさいネット」を動かす手続は手間やコストの負担になります。
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受注側のデメリット
受注側(サプライヤー)のサプライチェーン・ファイナンス利用のデメリットは、手数料が発生することです。
手数料は受注側(サプライヤー)が負担しなければなりません。
仮に受注側(サプライヤー)が売掛債権の支払いを前倒ししたいとは考えておらず、期日通りの支払いで問題ない場合は、サプライチェーン・ファイナンスの利用には何のメリットも感じないはずです。
その状況の中で発注側(バイヤー)の一方的な都合により、サプライチェーン・ファイナンスを利用しなければならず、さらに手数料支払いまで負担を強いられれば不満を感じてしまうことは当然といえます。
サプライチェーン・ファイナンスを活用しやすいケース
サプライチェーン・ファイナンスを活用しやすいのは、主に次の2つに該当するケースです。
- 買掛債務の支払いサイトが短め
- 買掛債務を多く抱えている
それぞれどのようなケースか説明していきます。
買掛債務の支払いサイトが短め
サプライチェーン・ファイナンスを活用しやすいのは、買掛債務の支払いサイトが短いケースです。
買掛債務を早めに支払わなければならない状況で、売掛債権の入金までの期間が長ければ、資金繰りは悪化してしまうでしょう。
しかしサプライチェーン・ファイナンスを使うことで、買掛債務の支払いサイトを延ばすことができ、資金繰り悪化を防ぐことができます。
買掛債務を多く抱えている
買掛債務を多く抱えていると、一度に多額の支払いが必要となり、手元の資金が足らなくなる可能性があります。
このような場合にサプライチェーン・ファイナンスを使えば、金融機関に立替払いしてもらえるため、余裕をもって買掛金を準備できます。
まとめ
サプライチェーン・ファイナンスは、別名リバース・ファクタリングと呼ばれるものの、通常のファクタリングとは異なるサービスです。
通常のファクタリングは売掛債権の売買であるのに対し、サプライチェーン・ファイナンスは融資として扱われるため、契約形態が異なります。
また、サプライチェーン・ファイナンスはまだ十分に浸透していないサービスであるため、取り扱っている金融機関も少なめです。
リスクヘッジの方法として検討はできるものの、受注者と発注者の双方がでんさいネットへ加入しなければならないことや、受注者の承諾が必要であり、発注者の独断では利用できないため注意してください。