運送や物流は、人々の暮らしに欠かせない業界といえるため、今後も衰退することはないと考える方もいることでしょう。
しかし実際には、働き手の不足やコスト増大などで、事業運営が厳しい状況に置かれている企業なども少なくありません。
そこで、運送業界の今後について、現状と抱える問題や、生き抜くために必要なことについて解説していきます。
目次
運送業界の現状
運送業界の今後を予想する前に、まずは現状を把握することが大切です。
人々が生活する上で、何らかの物資が必要とされる以上は、トラック運送業界が消えてしまうことはないと考えられます。
実際、インターネットを使った買い物などが広く普及し、宅配需要の高まりから右肩上がりで成長している業界ともいえます。
しかし仕事量は増えているのにもかかわらず、荷物を運ぶ人員は不足傾向にあり、既存のドライバーなどの高齢化も進んでいる現状にあります。
将来的には人の手を介さずにモノを運ぶため、たとえばドローンやロボットなどの最新技術を駆使した仕組みの導入が進んでいくこととなるでしょう。
運送業界の課題
運送業界は、現在様々な課題を抱えています。
具体的に何が問題となっているのか、解決するべき課題は主に次の6つです。
- 輸送量の増加
- 人材不足
- 燃料価格の高騰
- 運賃交渉
- 過剰サービスによる負担増
- 2024年問題への対応
それぞれの課題について説明します。
輸送量の増加
運送業界が現在抱えている課題として、EC市場の急拡大による輸送量の増加が挙げられます。
インターネット利用による買い物などのニーズが高まり、増え続ける輸送量に対するドライバー数が足りていません。
国内のEC市場は2016年に15兆円を突破しており、年10%以上で成長し続けていました。
その状況に加え、2020年に新型コロナウイルス感染症が流行したことにより、巣ごもり消費が加速したためよりEC市場が拡大したといえます。
今後もEC市場は拡大し続けることが予想されているため、さらに輸送量は拡大することとなるでしょう。
人材不足
運送業界が今後解決しなければならないこととして、人材不足の問題が挙げられます。
輸送量は増える中、最も深刻な課題として挙げられるのがドライバーなどの人材不足です。
既存のドライバーも平均年齢が50歳近いなど、高齢化が進んでいます。
特に長距離を担当する大型トラックのドライバーは、40代と50代がそれぞれ約4割を占めており、50代ドライバーが定年を迎える10年後にはドライバー数が激減することが予想されます。
高齢のままトラックドライバーとして働き続けたくても、視力や判断能力の低下で事故リスクは大きくなり、荷物の積み込みや荷下ろしなど体力面でも不安が発生します。
そのためドライバーとして働くことができる年齢はある程度までであり、若い世代にバトンタッチしていきたい職種ともいえますが、入職希望する若年層は少ないのが現状です。
運送業界は肉体労働であることと、平均給与が低いことで働き盛りといえる若い年代の取り込みが難しく、ドライバーの高齢化に拍車をかけています。
燃料価格の高騰
燃料価格の高騰についても、運送業界にとっては大きなダメージになっているといえます。
厳しい状況を乗り切るためには、高騰する燃料費に対して燃油サーチャージを導入するといった方法を検討できます。
燃油サーチャージとは燃油特別付加運賃のことで、国際線などのチケット代に上乗せされる料金です。
飛行機の燃料となる石油価格に応じた料金の変動として、第一次オイルショックに伴う原油価格高騰の措置として海運業界が初めて導入しました。
しかし運送業で一方的な判断はできず、荷主側に理解を得ることが必要となるでしょう。
運賃交渉
運送業界が今後、解決していかなければならない課題として、荷主との運賃交渉が挙げられます。
輸送量を少ない人員で対応することや、高騰する燃料費に対応するためにも、運賃の値上げは必要です。
しかし運送業側が一方的に値上げを通知するのではなく、荷主に対してなぜ運賃値上げが必要になるのか説明し、納得してもらわなければなりません。
実際には、値上げ交渉に快く応じてくれる荷主は少ないといえますが、それは荷主側にとっても物流網を安定して確保することは重要なことだからです。
運賃の値上げは荷主側のコスト増大の大きな要因となり、事業継続にも影響を及ぼしかねないことといえます。
しかし運送業が今後生き残るためにも、人件費や燃料費など客観的なデータを使った上で車両別原価表と依頼文書を作成し、値上げ後の価格の根拠を合理的に伝えて納得を得ることが必要です。
荷主に対する運賃値上げの交渉を成功させることができれば、運送業側のコスト軽減によって賃金アップなども検討しやすくなり、人材確保につなげることも期待できます。
過剰サービスによる負担増
運送業界が今後見直さなければならない課題として、過剰な付帯サービスが挙げられます。
たとえば物流センターで発生する長い待機時間や、人手不足によりドライバーに作業を手伝うように求めるなど、過剰要求と知った上で優位的な立場を悪用する荷主などもいます。
仮に断れば取引を中断するなど、圧力をかけてくるケースもあるようです。
また、ECサイトなどによる「送料無料」サービスにより、配送は無料であることがあたりまえで、有料は損といった誤った認識も生まれています。
お金を出したくない消費者が多く、再配達なども無料であるため、何度指定された日時に訪問しても不在といったケースも見られるようです。
日本の流通では、以前から運賃や料金込みで価格表示することが通例となっているため、この商慣行により買い手側からの運賃は無料といった意識が生まれたともいえます。
無料と認識されているサービスを効率化する必要はなく、多頻度・小ロットの輸送を増加させ、物流を非効率にした要因となってしまいました。
2024年問題への対応
運送業界の2024年問題とは、働き方改革法案によって、ドライバーの労働時間の上限の規制が厳しくなる問題のことです。
2023年4月からは、ドライバーの時間外労働は年960時間に制限されます。
一人あたりの走行距離が短くなるため、長距離輸送に影響が及ぶことが懸念されています。
そもそも運送業界はドライバーが足りていないため、荷主企業とのパワーバランスも崩れかけている今、荷主との交渉で集配時間などの調整や長時間労働に休日対応など抑えることが必要です。
交渉力を存分に発揮し、荷主にも協力してもらった上で、2024年問題に向けた対応が必要といえます。
また、2023年4月からは、残業時間60時間を超えた分の割増賃金率は50%以上となります。
割増賃金率アップにも対応しなければならず、未払いの残業代など発生させない勤怠管理や賃金規定の見直しなどの準備も必要となるでしょう。
運送業の2024年問題とは?働き方改革の影響と労働時間上限の課題を解説
運送業界が今後生き抜くために必要なこと
運送業界は現在厳しい状況にあるといえますが、今後、生き抜くために必要な取り組みとして次の6つが挙げられます。
- 配送方法の多様化
- 運送業務の効率化
- 女性ドライバーの積極採用
- 定着率向上に向けた対策
- 資格取得の支援制度導入
- 地域との連携
それぞれ詳しく説明します。
配送方法の多様化
運送業界が今後生き抜くためには、人手不足の解消に向けた配送方法の多様化を検討する必要があります。
自動運転技術を活用したトラックや配送車を導入することで、ドライバー不足による業務の遅延を防ぐことや、作業効率向上なども期待できます。
さらにテクノロジーを駆使した物流の自動化、自動運転やドローンを使った配送など、人の手を介さない仕組みは、今後の運送業界に欠かせないといえます。
すでにドローンによる配送の実証実験など始まっているため、安全性の検証や規制改革などが進めば、導入が加速する可能性もあるといえるでしょう。
自動運転は革新的な技術導入などで実証実験が進んでいるものの、法規制などの整備が不十分です。
今後、法規制などが整備されて実証実験がさらに進めば、差別化を狙った物流・運送の自動化をいち早く取り入れようとする運送会社が増えることも予想されます。
運送業務の効率化
運送業界では、今後、業務効率化に向けた最新技術の導入や、取引先との調整などが必要となります。
たとえば物流倉庫内での物流作業において、ロボット技術を活用した自動化など導入すると、労働力不足による業務の非効率性を改善できます。
さらに輸送効率化を図るために、物流業務以外の事務的な作業なども自動化することで、無駄な業務負担を排除でき人員不足を補うことにつながるでしょう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)による業務効率化では、在庫管理システムにIT技術を活用することで、作業時間やコストの削減を実現しつつ無駄な発注を防ぐことができます。
配送管理システムでもITを導入することにより、最適な配送ルートを自動で算出してくれるため、効率的な配送業務につながります。
女性ドライバーの積極採用
運送業界で働くドライバーは、男性が担当するというイメージが強いものの、近年では女性ドライバーも増えつつあります。
特にECサイトが普及したことで個配が増加したため、小さめの荷物を担当する2トン車や3トン車のニーズも高まっています。
小型のトラックであれば普通免許でドライバーとして働くことができるため、主婦なども活躍できる環境を整備する運送事業者も増えました。
今後は運送業界で多くの女性ドライバーを採用することにより、ドライバー不足の問題を解消しやすくなると考えられます。
ただし女性を迎え入れるためには、子育てとの両立しやすい就業体制や、休憩室や更衣室、トイレなど男女別々にするといった配慮も必要です。
定着率向上に向けた対策
運送業界は若手の入職者が少ないだけでなく、雇用してもすぐに退職してしまうなど、定着率の低さも人材不足の要因となっています。
雇用した人材が辞めてしまわないように、定着率を高めることは大切といえます。
そもそも運送業界のドライバーは流動性の高い職種であり、採用しても短い期間で次の運送会社へ転職してしまう傾向も見られます。
その背景には、労働に見合わない賃金や就労環境への不満などがあると考えられますが、定着率を上げるための従業員満足度の向上に向けた取り組みが必要です。
資格取得の支援制度導入
運送業界で働く上で、ステップアップを狙う従業員をサポートする制度も導入しましょう。
働きながら資格を取得できる制度など独自で設けることで、定着率向上にもつながりやすくなります。
たとえば中型免許やフォークリフト免許など、実際に現場で活かせる資格取得にかかる費用を会社側が負担すれば、未経験者や若い世代も入職しやすくなるはずです。
ただし資格取得後すぐに退職してしまわないように、制度活用により資格を取得した場合の一定の縛りや取り決めなどは必要となります。
地域との連携
運送業界が地域と連携することも、ドライバー確保や労働環境改善への近道です。
たとえば地域住民にドライバーの魅力をアピールすることや、地元の高校生や大学生などにドライバー育成プログラムを開催するといった方法が挙げられます。
さらに過疎地などの事業者とNPOが協働し、日用品の宅配や生活支援サービスの維持・改善に向けた支援を行う輸送システムを、自治体連携のもとで構築する取り組みなども行われています。
業種業態を越えた共同輸配送などを取り入れることも、効率的で高積載な地域物流の実現につながることでしょう。
まとめ
運送業界は、今後も輸送量の増加などで仕事が尽きることはないでしょう。
しかし深刻な人手不足の状況が続いており、ドライバーの有効求人倍率なども常に高い状態です。
常に人を募集している状況でありながら、人手不足が解消されないのは、低賃金や長時間労働など過酷な労働環境や待遇に問題があると考えられます。
今後、2024年4月からは、ドライバーの労働時間にも制限がかかることになるため、より限られた人員で現場を回さなければなりません。
人材獲得が急務といえる中で、人手不足解消に向けた賃金や労働時間など条件見直しや、定着率向上に向けた取り組みなどが求められます。
働き方改革によるドライバーの労働時間減少で、売上が減少してしまわないような生産性向上に向けた設備投資なども必要となるでしょう。