「経営セーフティ共済」とは、取引先の倒産により、自社も連鎖倒産しないための制度です。
掛金は法人なら損金に、個人事業主であれば必要経費で処理できるため、節税対策にも役立ちます。
そこで、経営セーフティ共済とはどのような制度なのか、加入するために必要な要件やメリット・デメリットについて解説していきます。
経営セーフティ共済とは
「経営セーフティ共済」とは「中小企業倒産防止共済制度」のことです。
健全な会社経営ができていても、取引先の倒産などはいつ発生するかわかりません。
不足の事態が起こった場合でも、事業資金を借りやすくするための共済制度が経営セーフティ共済です。
「共済」とは、互いに助け合うことや互いにお金を出し合い何かすることです。
加入者から集めた掛金を、不足の事態で困った会社を助ける相互扶助の精神のもとで運営されています。
取引先の倒産によるあおりを受けたときでも、スムーズに資金を借入れることができるため、連鎖倒産を防ぐことができます。
経営セーフティ共済の内容
経営セーフティ共済とは、ある日突然取引先な倒産してしまうなど、「もしも」に備えることができる安心の制度です。
借入れできる金額は掛金の最高10倍(8000万円上限)であり、無担保・無保証人でお金を借りることができます。
毎月支払う掛金も、法人なら損金、個人事業主なら必要経費として算入できるため、税負担も軽減されます。
経営セーフティ共済で借入れ対象となる「倒産」とは、取引先が次のような状況に陥ったときです。
- 法的整理を開始した
- 私的整理を開始した
- 取引停止処分を受けた
- でんさいネットの取引停止処分を受けた
- 災害により不渡りを出した
- でんさいや特定非常災害による支払不能状態となった
これに対し、経営セーフティ共済で借入れ対象にならない取引先の倒産は、次のとおりです。
- 夜逃げしてしまった
- 倒産日から6か月を経過した場合
経営セーフティ共済の加入資格
事業を1年以上継続している会社業務を行っている中小事業者のうち、以下の要件に該当する場合に経営セーフティネットに加入できます。
①業種・資本金・従業員数で加入要件を満たす会社または個人事業主
以下の業種ごとに次の2つのいずれかに該当する会社または個人事業主であることが必要です。
- 資本金額または出資総額
- 常時使用する従業員
業種 | 資本金の額または出資の総額 | 常時使用する従業員数 |
製造業、建設業、運輸業その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
ゴム製品製造業(自動車・航空機用タイヤ・チューブ製造業・工業用ベルト製造業除く) | 3億円以下 | 900人以下 |
ソフトウェア業または情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
業種・資本金または出資額・従業員数で加入制限を設けているのは、加入枠から大企業を除外して、中小事業者を守るといった制度の目的を達成するためといえるでしょう。
②企業組合や事業協同組合など
次のいずれかに該当する組合であれば加入できます。
- 企業組合・協業組合
- 共同生産や共同販売などの共同事業を行っている事業協同組合・事業協同小組合・商工組合
なお、医療法人・農事組合法人・NPO法人・森林組合・農業協同組合・外国法人などは加入の対象ではありません。
経営セーフティ共済に加入できないケース
金融業者や不動産業者、一般消費者が取引相手である事業者の場合、経営セーフティ共済からお金を借りることができない場合があります。
なぜなら経営セーフティ共済で貸し付けの対象となる債権は、取引先が倒産してしまったことにより回収できなくなった売掛債権や前渡金だからです。
貸付金や不動産賃貸料などは貸し付けの対象ではないため、加入前に確認しておいたほうがよいでしょう。
また、加入要件を満たす場合でも、次のいずれかに該当する場合には加入できません。
- 住所または主たる事業を繰り返し変更したため、継続した取引状況を把握できない場合
- 事業に関連する経理内容が不明の場合
- 借入れを受けた共済金や一時貸付金の返済ができていない場合
- 中小機構から返還請求を受けている共済金・一時貸付金・早期償還手当金・解約手当金の返還ができていない場合
- 納めなければならない所得税や法人税を滞納している場合
- 掛金を12か月分以上支払わなかったことや虚偽・不正行為などで共済契約を解除された日から1年を経過していない場合
- 虚偽または不正行為で共済金・一時貸付金の借入れ、早期償還手当金・解約手当金の支給を受けたり受けようとしたりした日から1年を経過していない場合
- すでに共済契約者である場合(重複加入不可)
経営セーフティ共済の加入方法
経営セーフティ共済に加入するときには、以下の書類を提出することが必要です。
会社・組合の必要書類 |
|
個人事業主の必要書類 |
|
法人・個人共通の必要書類 |
|
上記書類を揃えた上で、以下の窓口へ提出し申し込みが可能です。
- 会員(組合員)となっている委託団体
- 取引銀行などの金融機関
経営セーフティ共済の掛金月額
経営セーフティ共済に加入した場合には、毎月掛金を支払いますが、以下の特徴があります。
- 掛金月額は5,000円から20万円まで5,000円単位で任意に設定することが可能
- 掛金総額800万円まで積み立てることが可能
- 当初選択した掛金で毎月の支払いが厳しいときには後で減額することや、反対に増額も可能
- 掛金の前納も可能(この場合、1月につき掛金月額の1,000分の5の前納減額金が発生)
- 掛金総額が掛金月額の40倍以上に達していれば掛金の払込み停止も可能
- 共済金の借入れを受けたときも6か月間払込みを止めることが可能
経営セーフティ共済に加入するメリット
経営セーフティ共済は、中小企業が加入しておくと安心できる制度といえます。
メリットとしては、取引先が倒産したときの連鎖倒産を防ぐことができることですが、具体的に次の5つのメリットがあると考えられます。
- 無担保・無保証人で借入れできる
- 取引先倒産後はすぐ借入れできる
- 掛金を損金算入できる
- 解約すると解約手当金が支払われる
- 相続による引き継ぎも可能
それぞれ詳しく説明します。
無担保・無保証人で借入れできる
経営セーフティ共済の共済金を借入れる場合、担保や保証人は不要です。
借入額は、被害額と掛金総額の10倍に相当する額のいずれか少ない額で、原則、50万円から8,000万円で5万円単位の額となります。
また、取引先事業者が倒産していない場合でも、臨時に事業資金が必要なときには「一時貸付金」により解約手当金の95%を上限に借入れできます。
取引先倒産後はすぐ借入れできる
取引先が倒産し、売掛金など回収困難に陥ったときには、対象となる事業者との取引が確認でき次第、すぐに資金を借入れできます。
掛金を損金算入できる
毎月支払う掛金は、法人なら損金、個人事業主なら必要経費として計上できます。
税務上、損金算入できるため、節税に役立てることが可能です。
解約すると解約手当金が支払われる
共済契約を解約したとき、掛金を12か月以上支払っている場合には「解約手当金」を受け取ることができます。
自己都合の解約でも、掛金を12か月以上納めていれば掛金総額8割以上、40か月以上で全額払い戻されます。
相続による引き継ぎも可能
契約者に相続・合併・分割・事業譲渡があったときには、包括承継人や譲受人が経営セーフティ共済に加入する要件を満たしていれば、共済契約者の地位を承継できます。
ただし、3か月以内に申し出ることが必要であることと、共済金や一時貸付金など借入れが残っているときには、返済義務も引き継ぐことになります。
経営セーフティ共済に加入するデメリット
経営セーフティ共済は、中小企業にとってメリットが多い制度といえますが、次の2つのデメリットには留意しておくべきです。
- 借入金額10%が減額対象
- 加入期間不足で解約手数料が発生
それぞれ詳しく説明していきます。
借入金額10%が減額対象
取引先が倒産したときには無利子で借入れが可能ですが、それまで払い込んでいた掛金は減額されます。
借入額の10%を掛金から減額されるため、掛金総額の10倍借入れたときには掛金がなくなることは留意しましょう。
加入期間不足で解約手数料が発生
掛金を納めている月が40か月未満で解約した場合には一定額が減額され、40か月経過すると掛金100%が返還される仕組みとなっています。
加入期間が不足すれば解約手数料が発生することは理解しておいてください。
まとめ
経営セーフティ共済は、取引先の倒産で連鎖倒産危機に陥ったときでも、スムーズに資金を借入れることができる制度です。
毎月支払う掛金は損金や必要経費として計上できるため、税負担を抑えられます。
仮に解約しても掛金を戻してもらえますが、掛金納付期間が40か月未満では払い込んだ金額全額は戻らないことと、借入れがあれば掛金の一部がなくなることは留意しておきましょう。