運転資金とは、事業を営む上で必要な資金の中の設備資金以外の資金すべてだといえます。
事業に欠かすことができない資金には、商品の仕入れや経費を支払うために必要な運転資金と、機械や設備を購入するために必要な設備資金に分けることができます。
もし、運転資金を銀行からの借入れなどで調達しようと考える場合、性質や使いみちはいろいろなので、調達する金額の設定はそのときの状況によって異なります。
では、起業や新規事業で運転資金を準備しようと考えた場合、金額はいくらで考えておけばよいのでしょう。
そこで、運転資金とはどのようなお金なのか、その考え方や種類・計算方法についてわかりやすく解説していきます。
目次
運転資金とは
「運転資金」とは、事業に必要な費用の支払いに充てるため、「継続」して準備が必要となるお金です。
たとえば、
- 材料費など仕入代金
- 事務所の家賃
- 水道光熱費
- 通信費
- 従業員に対する給与
- 広告宣伝
- 外注費
- 保険料
- 税金
などが運転資金として挙げられます。
運転資金は、次の2つに分けることができます。
- 変動費(売上により変動する費用)
- 固定費(売上に左右されず一定額の費用)
この2つの運転資金が毎月不足しないように、資金繰りを行うことが必要になるため、それぞれどのような費用か説明していきます。
変動費
「変動費」とは、売上によって変動する費用です。
売上が順調で多く商品が売れるようになると、さらに販売数を増やすために商品を製造することになります。
その際、材料の仕入れや増員などで「材料費」や「仕入費」も増えることになりますが、これらの費用が変動費といえます。
反対に売上が悪く商品が売れなくなれば、変動費は少なくなります。
固定費
「固定費」とは、売上が増減しても変わらず毎月必要となる費用で、たとえば「事務所賃料」や「リース料」などが該当します。
設備資金とは
「設備資金」とは、事業用設備を導入するために「一時的」に必要となる資金です。
定期的に必要となる資金ではないため、運転資金とは分けて考えます。
設備資金には、次のようなものの購入費用が挙げられます。
- 機械など製造機器類
- パソコン・OA機器類
- 社用車
- 土地や建物など不動産
購入費用以外で設備資金とされる費用は以下のとおりです。
- 購入した設備や不動産を修繕・改装する費用
- 工場の増改築費用
- 事務所賃貸の敷金・保証金(家賃・礼金は運転資金となる)
- システム開発費用
運転資金の種類
運転資金は毎月不足しないように注意することが必要ですが、次の4つの種類に分けて考えましょう。
- 経常運転資金
- 増加運転資金
- 減少運転資金
- 季節運転資金
それぞれ説明していきます。
経常運転資金
「経常運転資金」とは、事業を維持・継続するために恒常的に必要となる運転資金です。
通常の運転資金とはこの経常運転資金を指していることが多く、急遽必要となったお金は含まれません。
経常運転資金として、次のような費用が挙げられます。
- 仕入代金
- 人件費
- 賃貸料
- 通信費
など
増加運転資金
「増加運転資金」とは、事業拡大でかかる資金であり、現状維持にとどまらず必要となる資金ともいえます。
たとえば売上増加など企業が成長段階にあるときに必要になる運転資金であり、仕入れ増加や人員増員などでかかる費用に充てる資金です。
企業が成長段階にあっても、十分に増加運転資金が準備できていなければ、せっかく黒字でも資金が足らずに倒産する「黒字倒産」を起こすリスクも高くなります。
掛け取引を続けるときには、運転資金が増える可能性も十分に検討しておき、入出金のタイミングを把握した上で増加運転資金が不足しないように注意しておきましょう。
減少運転資金
「減少運転資金」とは、事業を縮小するためにかかる資金です。
増加運転資金とは反対で、たとえば売上低迷など事業の不振などで必要になる運転資金であり、次のような費用に充てるときに必要になります。
- 店舗閉鎖
- 資産除却
事業にブレーキをかけるときにかかる資金といえますが、仮に売上が低迷していてお金が入ってこなくなっても、店舗や事務所を借りていれば賃貸料は毎月発生し、雇用している従業員の給料も支払い続けることになります。
そこで、運転資金として「つなぎ資金」を準備しなければなりませんが、このつなぎ資金が減少運転資金です。
減少運転資金を一時的なつなぎに使い、キャッシュフローを回しながら売上増額や人件費・諸経費削減などで経営を立て直していきます。
ただ、このような状態が長期化すれば、減少運転資金のショートで経営不振に陥ることとなり、経営は破たんしてしまうでしょう。
減少運転資金が必要な状態にあるのなら、できる限り早期回復できるように取り組みことが欠かせません。
季節運転資金
「季節運転資金」とは、特定の季節にだけ発生する運転資金で、たとえば次のような資金が該当します。
- クリスマス商品仕入れにかかる費用(店内ディスプレイの費用含む)
- 元旦向け商品仕入れにかかる費用(店内ディスプレイの費用含む)
- 夏季・冬季のエアコン購入費用
- 夏季・冬季の従業員に支払う賞与
毎年決まった時期に一定額が必要になることが想定されるため、前もって十分な資金をプールしておくようにしましょう。
運転資金の計算方法
運転資金は会社経営に欠かせない資金のため、もしも不足してしまえば仕入れができなくなったり人を雇えなくなったりするなど、業務に支障をきたすと考えておくべきです。
そのような事態を起こさないためにも、現状、どのくらいの運転資金を準備しておかなければならないか把握しておくことが必要といえます。
そこで活用したいのが以下の運転資金の計算方法です。
運転資金=売掛金+棚卸資産(在庫)-買掛金
主に掛けによる取引を行っているときの運転資金の計算方法なので、参考にしてください。
計算した結果、数値が大きければ大きいほど多くの運転資金が必要になります。
保有する売掛金と在庫が大きければ数値も大きくなるため、まだ回収できていない額が多いことを意味します。
未回収金額が大きいことは、売掛金が入金されるタイミングが遅いことや、回収不能状態に陥っていることを意味します。
また、在庫として残ってしまい、売れないまま保管状態にある在庫が多いとも考えられるでしょう。
この中でまだ支払っていない仕入れ代金である買掛金の支払い分を準備しなければならないため、不足する運転資金は何らかの手段で調達することが必要となります。
反対に数値が小さいときやマイナスの場合には、未回収額が少ないことを意味するため、運転資金を調達する必要性は低くなると考え運転資金=売掛金+棚卸資産(在庫)-買掛金
られます。
掛け取引では、売掛金の入金と買掛金の出金のタイミングがズレてしまい、運転資金が足らなくなるリスクが高いため、いつ・どのくらいの金額が必要になるか事前に把握しておくことが大切です。
起業・新規事業の運転資金の考え方
起業するときや新規事業を始めるときにも運転資金は必要です。準備できる資金は多いほど安定して事業をスタートさせることができるでしょう。
しかし、起業の場合は特に多額の融資を受けることは困難ですし、自己資金として準備できる金額にも限界があります。
無理なく準備できる運転資金を考える場合には、事業計画から行っていくことが必要です。
運営の見通しを立てて行く際に、かかる諸費用や支出を計算しておき、数か月間、利益が出ない状況でも資金不足にならない金額を設定するようにしましょう。
起業してまもない期間においては、十分に実績が出ていないことで資金を調達できる手段は限られてきます。
その上、運転資金が不足してしまうとせっかく立ち上げた事業を閉鎖しなければならなくなるでしょう。
そのため、最低でも3か月分は金額の目安として準備しておくようにしましょう。
運転資金の調達方法
運転資金の調達方法といえば、真っ先に取引銀行から融資を受けることを考えがちです。
しかし運転資金を調達するなら、次のような方法も検討できます。
- 民間銀行からの借入れ(都市銀行・地方銀行から融資を受ける)
- 政府系金融機関からの借入れ(日本政策金融公庫から融資を受ける)
- 自治体などからの借入れ(都道府県・市区町村の融資制度を利用する)
- ビジネスローンで借入れ(銀行・ノンバングなどの事業資金用提供ローンを利用する)
- 売掛金の現金化(ファクタリングを利用する)
この中で、借入れではない方法は、5つ目の売掛金を現金化する「ファクタリング」だけです。
ファクタリング以外の外部からの借入れで資金調達する場合、次のことが問題となります。
- 審査に通るか
- 融資限度額が資金額に足りるか
- 返済期間や利息など無理な返済計画にならないか
融資を受けて調達した資金は「借金」であるため、返済することが必要です。
しかしファクタリングは、保有する「売掛債権」という資産を現金化する方法のため、借金を増やさずに手元の運転資金を増やすことができます。
銀行融資などで運転資金を準備できない場合でも、信用力の高い取引先からの売掛金が保有できているのなら、その売掛債権を売却して現金化するファクタリングも資金調達の手段として検討できます。
今よりも借金を増やしたくないという場合や、事業を営む上で売掛債権が発生した時点で利用することができるため、入金期日を迎える前の運転資金準備に活用することをおススメします。
まとめ
運転資金とは、変動費と固定費と種類はあるものの、不足が生じないように適切な手段で準備しておくことが必要なお金です。
もしも必要な運転資金が不足すれば、事業を継続することは難しくなるでしょう。
諸費用や税金などの支払いが滞れば、会社の信用力は低下し、取引先との関係にもヒビが入る可能性があります。
運転資金は不足が生じない金額をまえもって設定しておき、適した資金調達の方法で準備するようにしてください。