社会保険料が高い理由とは?適用事業所の種類と計算方法・事例を解説

社会保険料が高いのは、負担割合が上がっているからです。

労使折半で支払う社会保険料は、事業所と労働者がそれぞれ半分ずつ負担しますが、給与だけでなく賞与も徴収の対象となります。

少子高齢化が進む日本では、高齢者医療への支援を含む医療費が増えれば、補填するための社会保険料が高い構造をつくってしまいます。

そこで、社会保険料はなぜ高いのか、その理由や保険料を支払う適用事業所の種類、さらに計算方法を事例を用いて解説します。

社会保険料とは

社会保障制度

「社会保険料」とは、人を雇用することで事業所が加入する社会保険制度の保険料です。

社会保険制度は社会生活の中で起こるリスクに備えるための公的な保険制度であり、ケガ・病気・出産・障害・老齢・死亡・失業などの事態に遭遇したとき、一定給付を受けることができます。

生活の安定を図るための保障の根幹となる制度であり、次の5つの種類の保険料を支払います。

健康保険料 従業員とその扶養家族のケガ・病気・出産などで必要な医療費を補償する制度に対する保険料
介護保険料 要支援または要介護の認定を受けた方の利用する介護サービスに対する保険料
厚生年金保険料 年金制度に対する保険料
雇用保険料 雇用や生活の安定を補償するための制度に対する保険料
労災保険料 就業中または通勤中の事故によるケガや病気を対象とした制度に対する保険料

また、社会保険料は事業所と従業員がそれぞれ負担しますが、割合は以下のとおりです。

社会保険の種類 会社の負担割合 従業員の負担割合
厚生年金保険料 50% 50%
健康保険料 50% 50%
介護保険料 50% 50%
雇用保険料 事業者と労働者がそれぞれ負担(事業者の負担割合のほうが大きい) 事業者と労働者がそれぞれ負担(事業者の負担割合のほうが大きい)
労災保険料 100% 0%

健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料の納付期限は翌月末日のため、従業員の負担分の保険料は給与から天引きされることになり、事業所が負担する分と合わせて納めます。

雇用保険料と労災保険料は、年に1度の年度更新で保険料を計算し、毎年6月1日から7月10日の間に納付します。

社会保険料の会社負担割合は? 計算方法や注意点・未加入リスクを徹底解説

社会保険料が高い理由

介護施設でのシーン

社会保険料が高い理由は、少子高齢化が進み、現役世代や事業所の負担する社会保険料の約半分以上を65歳以上の高齢者の医療費へ充てているからです。

まず公的年金の場合、会社員や公務員の加入する厚生年金の保険料率は2017年9月から労使折半で18.3%に固定されました。

さらに現役世代減少や平均余命の伸びに合わせて、年金の給付水準が自動調整されるマクロ経済スライドが導入されたことにより、公的年金の給付額の伸びは抑えられています。

しかし医療保険は、高齢者医療への支援も含めた医療費が増えることで、賄うための社会保険料も自動的に増加します。

65歳以上の一人あたりの医療費と、65歳未満の医療費の開きは約4倍です。

強制加入である公的な保険である以上は、負担した社会保険料に対してリスクに見合った給付を受け取ることのできる仕組みが求められます。

しかし実際には、世代間扶助の所得再配分の仕組みが混在している状態です。

現役世代が減少している中で現状の社会保険制度を継続させるのであれば、増加し続ける高齢者の医療費補填のために社会保険料を増やすことは避けられないでしょう。

【無料ダウンロード】
9つの資金調達方法を紹介

9つの資金調達方法のメリットデメリットから申請方法、さらに審査落ちした時の対処法までをまとめた経営者必見のガイドブックです。

いますぐダウンロード

社会保険料の計算方法

人件費の計算

社会保険料は給与や賞与それぞれに保険料率を掛けて計算します。

高いと感じるときは、以下の社会保険料が実際にどのような計算方法で算出されているのか確認するとよいでしょう。

  1. 健康保険料
  2. 厚生年金保険料
  3. 介護保険料
  4. 雇用保険料

ここでは労働保険料(雇用保険料・労災保険料)以外の保険料について説明します。

社会保険料の計算方法は?負担割合や控除・ボーナスにおける対応を解説

健康保険料

「健康保険料」は、事業所と労働者で半分ずつ負担するため、以下の計算方法で算出します。

健康保険料(給与) = 標準報酬月額 × 健康保険料率
健康保険料(賞与) = 標準賞与額 × 健康保険料率

事業所(労働者)負担の健康保険料 = 標準報酬月額(標準賞与額) × 健康保険料率 ÷ 2

例:東京都で協会けんぽに加入・標準報酬月額30万円のケースにおける事業所(労働者)負担の健康保険料

保険料率 : 9.98%

300,000(円) × 9.98% ÷ 2 = 14,970(円)

なお、全国健康保険協会「令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)」で都道府県ごとの保険料率は確認できます。

厚生年金保険料

「厚生年金保険料」も、健康保険料と同じく事業所と労働者が半分ずつ負担します。

厚生年金保険料(給与) = 標準報酬月額 × 厚生年金保険料率
厚生年金保険料(賞与) = 標準賞与額 × 厚生年金保険料率

事業所(労働者)負担の厚生年金保険料 = 標準報酬月額(標準賞与額) × 厚生年金保険料率 ÷ 2

例:東京都で協会けんぽに加入・標準報酬月額30万円のケースにおける事業所(労働者)負担の厚生年金保険料

保険料率 : 18.300%
300,000(円) × 18.300% ÷ 2 = 27,450(円)

都道府県ごとの厚生年金保険料の保険料率も、全国健康保険協会「令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)」で確認できます。

介護保険料

「介護保険料」も健康保険や厚生年金保険料と同じく、事業所と労働者が半分ずつ負担します。

介護保険料(給与) = 標準報酬月額 × 介護保険料率
介護保険料(賞与) = 標準賞与額 × 介護保険料率

事業所(労働者)負担の介護保険料 = 標準報酬月額(標準賞与額) × 介護保険料率 ÷ 2

介護保険料の保険料率は、加入する健康保険組合によって異なります。

全国健康保険協会の「協会けんぽの介護保険料率」は、2024年3月から1.60%とされています。

例:東京都で協会けんぽに加入・標準報酬月額30万円のケースにおける事業所(労働者)負担の介護保険料

保険料率 : 1.60%
300,000(円) × 1.60% ÷ 2 = 2,400(円)

社会保険の適用事業所の種類

社会保険の適用される事業所を「適用事業所」と言い、以下に分けることができます。

  1. 強制適用事業所
  2. 任意適用事業所
  3. 一括適用の適用事業所

それぞれの適用事業所について説明します。

強制適用事業所

「強制適用事業所」とは、社会保険への加入が義務づけられている事業所です。

株式会社や合同会社などの法人は、代表者1名のみの会社でも社会保険へ加入しなければなりません。

個人事業所は、農林漁業・サービス業などの一部の業種を除いて、常時雇用の従業員が5人以上いれば強制適用事業所として加入義務が発生します。

短時間労働者の社会保険加入対象の要件

社会保険加入対象となる短時間労働者は、2024年9月末までは厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業で、週20時間以上勤務する方でした。

しかし2024年10月からは厚生年金保険の被保険者数51人以上の企業で、以下の要件を満たす短時間労働者は社会保険への加入が義務付けられます。

  • 短時間労働者の社会保険加入対象条件
  • 週の所定労働時間が20時間以上である
  • 所定内賃金が月額8.8万円以上である
  • 2か月を超えて雇用される見込みがある
  • 学生ではない労働者である

任意適用事業所

「任意適用事業所」とは、強制適用事業所に該当しないものの、厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受けて健康保険・厚生年金保険が適用された事業所です。

従業員の2分の1以上が社会保険加入に同意し、事業主の申請で厚生労働大臣の認可を受ければ適用事業所になれます。

強制適用事業所とは適用事業所になる前提が異なるだけで、加入後の保険給付や被保険者の範囲、保険料などは同じです。

任意適用事業所になった場合、社会保険加入へ同意しなかった従業員も加入手続が必要となるため注意してください。

一括適用の適用事業所

社会保険の「一括適用」とは、事業主が同じであるなど一定基準を満たし、複数の事業所を1つの適用事業所にまとめることを認めることです。

本社や支社など個別に適用された適用事業所があるものの、給与関連の業務は本社などでまとめて管理しているとき、適用事業所ごとに手続することは難しいといえます。

この場合、社会保険の一括適用を承認してもらうことで、手続を効率化できます。

ただし一括適用の承認は厚生年金保険および協会けんぽ管掌の健康保険の基準を満たすことが必要となるため、日本年金機構の「一括適用」を参考にしてください。

社会保険料の見直し時期

社会保険料の計算基準となる標準報酬月額は、毎年4月から6月までの平均給与額で決定します。

そのため社会保険料の見直しは、毎年9月に行われます。

4月入社の新卒社員の場合は、入社した年の8月までは見込み給与額をもとにして、毎月の社会保険料を計算します。

その後は4月から6月までに実際に支払われた給与をもとに社会保険料が計算され、9月分の給与から天引きの対象となります。

なお、社会保険料は財源の見直しなどの要因でも改定されることもあるため、最新情報は常に入手するようにしてください。

社会保険料の注意点

社会保険の資格取得届

社会保険料を計算するときは、以下の4つに注意してください。

  1. 賞与も徴収の対象になる
  2. 給与が上がると徴収額も増える
  3. 雇用保険料以外は日割計算なし
  4. 国保から社保への切り替えは手続が必要

それぞれの注意点を説明します。

賞与も徴収の対象になる

社会保険料は、賞与も徴収の対象です。

ただし賞与は年3回以下で支給される場合であり、年4回以上の支給においては社会保険で賞与に係る報酬として扱います。

そのため標準賞与額ではなく標準報酬月額の対象になり、保険料の計算方法も異なるため注意しましょう。

賞与も社会保険料の対象?計算方法や差し引かないケースをわかりやすく解説

給与が上がると徴収額も増える

給与が上がれば、社会保険料として徴収する額も増えます。

社会保険料は毎年9月に変更される以外にも、給与の3か月間の平均額が標準報酬月額の区分で2等級以上の差が出たときに変わります。

昇給により標準報酬月額が変更されれば、社会保険料も高くなり、給与から徴収する額も増えるため注意してください。

社会保険料は4から6月に残業すると上がる?手取りが減る時期を解説

雇用保険料以外は日割計算なし

社会保険料は、雇用保険料以外は日割計算がありません。

雇用保険料は支給額に保険料率を掛けて計算するため、支給額が日割りになれば負担する保険料も日割りすることが必要です。

なお、健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料は、退職日の翌日が属する月の前月分までの保険料を支払います。

国保から社保への切り替えは手続が必要

以下のケースにおいては、国保から社保への切り替え手続が必要です。

  • 個人事業者が会社などへ就職して社会保険へ加入したとき
  • 親の扶養で国民健康保険に加入していた方が就職して社会保険へ加入したとき
  • 結婚したため社会保険加入者の扶養に入ったとき

国民健康保険の被保険者証と、職場の健康保険証、印鑑(認印で可)を市役所に持参し、届出を行いましょう。

届出をしていなかった場合、国民健康保険料と社会保険料を二重に支払うことになります。

二重で支払った場合でも手続すれば還付されるものの、時間がかかる場合もあるため手続は必須といえます。

なお、国民年金保険から厚生年金保険への切り替えは、勤務先が年金事務所に届出を行えばよいため、個人が手続する必要はありません。

まとめ

社会保険料が高いと感じるときは、実際にどのような計算方法で算出しているか確認するとよいでしょう。

事業所と労働者が労使折半で負担するため、保険料全額を負担しているわけではないものの、高齢者の医療費が増え続ける以上は今後も社会保険料は高くなる恐れがあります。

なお、国民健康保険から社会保険への加入においては個人で切り替え手続を行うことが必要であり、届出していなければ二重徴収されてしまいます。

社会保険料が高いと感じる要因になるため、人を雇用したときには忘れず手続するように伝えましょう。