債務超過で事業譲渡や会社売却を行うときに押さえておきたいポイント

会社が債務超過の場合、事業を譲渡したくてもできないと考えてしまいがちですが、売却できる可能性はあります。

業績が悪く赤字や債務超過といった問題を抱えていると、事業や会社を譲渡できないと悩む経営者も少なくありませんが、諦める必要はありません。

事業を譲渡することで得たお金で負債を返済できれば、債務超過解消だけでなく後継者に対するスムーズな承継にもつながります。

債務超過の会社を譲渡することで事業再生できるといったメリットもありますが、具体的にどのような方法があるのか詳しく解説していきます。

 

目次

債務超過で悩む中小企業の現状

バブル経済が崩壊してからの日本経済は、不況とデフレにより長く苦しめられてきました。

さらにリーマンショック以降には経営不振に陥る企業も増え、厳しい経済状況の中で売上をどのように確保するべきか、様々な戦略を練り経営を続けてきた会社もあります。

無駄を省き利益を出している会社も少なくはありませんが、外部環境の変化で「債務超過」に陥っている場合、売上減少や負債増加を食い止めることは厳しい状況にあるとも考えられます。

経営努力で事業を続けている商店街の小さな商店などもあれば、すでにシャッター街に変わり往来する人がほとんどなくなった状態で、廃業を検討する商店もあります。

このような状況は他の業種でも起きており、事業に将来性を描くことができるか見極めなければならないときがきているといえるでしょう。

新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、債務超過で厳しい状況にある中小企業は、従前の事業縮小や新規事業の開始、売却による清算など大胆な方針転換が求められています。

しかし問題を抱えている多くの中小企業は、著しい売上減少に対しどのような対策を取ればよいかわからず、頭を抱え悩み続けているといえるでしょう。

 

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そもそも債務超過とはどのような状況なのか

そもそも「債務超過」とは、負債総額が資産総額を上回っている状態のことであり、貸借対照表の「資産の部」と「負債の部」を比較すれば確認できます。

貸借対照表の負債総額が資産総額を超えていれば「簿価債務超過」と判断できますが、「資産総額-負債総額=純資産」であることから、債務超過は純資産がマイナスになっている状態だといえます。

貸借対照表の項目ごとの金額は、資産を取得したときや過去に評価換えを行ったときなどの状態に基づいています。

そのため現在の資産や負債の実態が反映されていないことがあるため、現状を実態に即して債務超過か判断するためには、それぞれの資産や負債を時価に換算した「実態貸借対照表」を用いたほうがよいでしょう。

実態貸借対照表の負債総額が資産総額を超え、純資産がマイナスであれば「実質債務超過」と判断できます。

時価に修正したときに純資産が減少した場合には、簿価債務超過ではなかったとしても実質債務超過になることもあるため、確認したほうがよいでしょう。

純資産を減少させる要因となる修正には、資産と負債、それぞれ次のような修正が挙げられます。

資産

  • 売掛金…取引先から未回収となり貸し倒れしそうな分は減額した場合
  • 棚卸資産…在庫の品質が低下または陳腐化したことを考慮し価額を切り下げた場合
  • 有価証券…値下がりした有価証券を時価に直した場合
  • 土地…値下がりした土地を時価に直した場合

負債

  • 退職給付引当金…退職金に関する債務を適切に見積もったことで引当金が増額された場合
  • 債務保証損失引当金…会社が保証人となり債務履行を求められる可能性が高くなったことで、債務額を見積もり引当金へと計上した場合

 

事業譲渡とは具体的に何をすることか

「事業譲渡」とは、会社の一部または全部の事業を、第三者に対し売却(譲渡)する手法のことです。

特定の事業に属している資産・権利・義務だけが移転対象となるため、「経営権(株式)」売主側が引き続き保有することが特徴といえます。

そのため事業譲渡は一部の事業だけを売買するときに用いられる手法であり、会社ごと売却するときには経営権を手放す「株式譲渡」が活用されます。

一部の事業だけを譲渡することも可能

複数の事業部門を運営している会社で、それぞれに顧客が存在するという場合には、一部門のみ第三者に譲渡するといった方法もあります。

事業部門で働く人と取引先を譲渡するというイメージになりますが、事業部門の売却と耳にすると、

「承継する会社にリスクがあるため誰も受けてくれないのではないか…」

と考えてしまう経営者もいることでしょう。

しかし、そもそも経営規模が小さい中小企業の残った債務を整理しながら、事業を移転するといった形式になるためその限りではないと考えられます。

 

赤字と債務超過の違い

「赤字」とは、その期の収益が費用を下回っていることで利益ではなく「損失」が出ている状態のことです。

債務超過ではなく単なる赤字だったとしても、その状況が続けば負債がかさむこととなり、純資産は切り崩されいずれ債務超過に陥る、または運転資金が「ショート」することになります。

反対にたとえ今は債務超過でも、将来的に利益を出し続け黒字状態を継続できれば、財務状況は改善され債務超過も解消されるはずです。

事業を立ち上げたばかりの時期などはまとまった設備投資が必要となるため、その直後は一時的に債務超過状態になることもあります。

しかし十分に収益を生む見通しが立っているのなら、資産超過に転じることが期待できるといえるでしょう。

 

債務超過で事業譲渡を行うメリットとは

債務超過で事業譲渡を行うことのメリットは、

  • 事業譲渡により得た資金で債務返済が可能になる
  • 従業員に安定した環境で働いてもらうことが可能になる

という2つです。

それぞれ詳しく説明していきます。

事業譲渡により得た資金で債務返済が可能になる

事業譲渡で資産や権利などを譲渡すれば、それによる「売却益」を得ることができ、そのお金を債務の返済に充てることができます。

規模の小さな事業だとしても数百万円から数千万円単位の利益が残れば、負債を大幅に減少させることができるでしょう。

事業譲渡により債務超過が解消されれば、その後、後継者への事業承継などにつながりやすくなります。

従業員に安定した環境で働いてもらうことが可能になる

事業譲渡では対象となる事業に属する従業員の雇用契約も引き継がれるため、従業員には安定した環境で働いてもらうことが可能となります。

債務超過の企業から資金繰りの安定している企業へ移籍できるため、従業員の待遇も向上されることが期待されます。

また、いつ倒産してしまうかわからない会社で働くという不安から解放されることもメリットといえるでしょう。

 

債務超過で事業譲渡する場合のデメリット

債務超過でも借金を返済したり様々な支払いができたりという状況であれば、すぐに倒産するわけではありません。

しかし資金がショートし、借入金の返済ができない不能状態に陥ることや、手形や小切手の不渡りを出してしまえば、直ちに倒産危機に直結してしまいます。

銀行など金融機関から融資を受けて資金調達し、倒産しないための資金準備をしたくても、債務超過では借入れはできないと考えられるでしょう。

融資を受けることが可能となるのは、

  • 利益が出ている
  • 近い将来に債務超過が解消される見込みがある
  • 事業の将来性が高く評価されている

といったことが必要です。

資金の借入れができなければ、仕入先や販売先との関係にも影響することとなり、さらに債務超過が続けばいずれ倒産危機が訪れてしまうことになってしまいます。

仮に「上場企業」であれば、債務超過が発生し1年以内に解消されなければ、上場廃止処分を受けることとなり「上場廃止」となります。

このままではいけないと事業譲渡を検討したい場合でも、債務超過の場合には次のデメリットに注意が必要です。

債務超過で事業譲渡するデメリットとして挙げられるのは、

  • 事業を売ったとしても債務は残ること
  • 詐害行為とみなされるリスクがあること

の2つといえますが、それぞれ詳しく説明します。

事業を売ったとしても債務は残ること

「事業譲渡」の場合、買手企業は買い取りたい資産・権利・義務だけを選んで取得します。

そのため事業だけを売却する場合には、債務は売り企業側に引き続き残ることになります。

事業を売却したことで得た利益で債務の返済をある程度できたとしても、債務超過から脱却できるとは限りません。

詐害行為とみなされるリスクがあること

債務超過で事業譲渡を実施するときには、「詐害行為」とみなされるリスクに注意しておく必要があります。

詐害行為とは、お金を貸している債権者の利益を害することを理解した上で、返済しなければならない企業が自身の保有財産を減少させることです。

債務超過で倒産するときには、倒産する企業は保有する財産を売却・換価し、債権者に対する返済資金に充てることになります。

事業譲渡で会社の資産を売却した場合、返済資金のもととなる財産が減少してしまうため、債権者にとってはお金を回収する機会を逃すことになるといえるでしょう。

もしも債権者から詐害行為に該当するとみなされた場合、「詐害行為取消権」を行使され、事業譲渡が取り消しになるリスクを高めるため留意しておいてください。

 

事業譲渡における譲渡金額の評価方法

どのくらいの金額で事業譲渡するのか、譲渡金額を決めるときに「基準」となるのは「企業価値」です。

株式譲渡のときと違って、事業譲渡では売却する事業の資産・権利・義務だけの価値を算定することになります。

企業価値は、

  • コストアプローチ…純資産を企業価値とする方法であり、純資産に営業権(のれん)を合算した金額を譲渡金額にするなど
  • インカムアプローチ…将来得ることのできるキャッシュフローの現在価値を基準とし、企業価値を計算する方法
  • マーケットアプローチ…類似する企業や市場の株価、過去の取引事例などを基準として起業価値を計算する方法

の3つで求めることになりますが、債務超過の中小企業の場合には「コストアプローチ」で価値を算定することが多いといえます。

 

債務超過で事業譲渡することによる効果

債務超過の状況で事業譲渡した場合、次のような効果が得られると考えられます。

  • 売却益を獲得できる
  • ノンコア事業を切り離すことで財務健全化を図ることが可能
  • 倒産危機を回避できる
  • 事業再生・拡大が可能になる
  • 倒産した場合でもダメージを軽減し手続を早期に終結できる

それぞれ詳しく説明していきます。

売却益を獲得できる

債務超過とは負債が資産を上回っている状態にあるため、会社のすべての資産を売ってお金に換えても、弁済に充てる資金を十分に得ることはできません。

その上、資産を簿価や時価で売却できるとも限らず、買い叩かれたときには帳簿よりもマイナスが大きくなると考えられます。

債務超過で廃業し、すべての資産を売って負債を弁済して余った財産を株主に分配する「会社清算」を行うときには、資金が十分でないため債権者と協議を行い、債務整理・破産・特別清算を行うこともあります。

いずれにしても株主が分配金を得ることは期待できませんが、会社売却なら債務超過でも株主が利益を得ることができる可能性もあるでしょう。

単独では債務超過を解消させることができない場合でも、経営統合で収益性を確保できることが見込めれば、買手企業は負債を引き受けてでも対価を支払い会社の買い取りをしたいと考える可能性もあります。

優良な事業だけを切り分け譲渡し、残った部分を清算する方法でも株主に利益を残すことができる可能性が考えられるといえるでしょう。

ノンコア事業を切り離すことで財務健全化を図ることが可能

債務超過になっている主な原因が中核的なコア事業ではなくノンコア事業の場合には、対象となる事業だけを売却により切り離し、経営資源をコア事業に集中させることで財務健全化を図ることができます。

倒産危機を回避できる

債務超過の状態が続き、いずれ倒産しなければならにという状況を続けるよりは、その前段階で会社を売却して倒産を回避することも検討できます。

会社を売却することで倒産が回避できれば、従業員の雇用も守ることができ、取引先や地域経済に対する影響も抑え、経営者の信用力も毀損されにくくなります

事業再生・拡大が可能になる

単独で債務超過を解消させて経営再建を図ることが難しいケースでも、スポンサーとなる買手企業を見つけ、統合されれば「事業再」」できることもあります。

豊富な経営基盤がある企業グループの傘下に入ることができれば、事業再生した後でさらに事業拡大も期待できます。

倒産した場合でもダメージを軽減し手続を早期に終結できる

債務超過で倒産を避けることができない状況にあったとしても、将来性などが見込める事業があれば、スポンサーとなる買手企業へ譲渡し存続させることができます。

従業員の雇用だけでなく、事業の「ブランド」もある程度維持できるようになるためでしょう。

さらに事業を売却したときの代金を債務弁済に充てることが可能となるため、債権者も債権を回収できる確率を高めることができます。

債務整理する場合でも協議や手続をスムーズに進めることができるようになり、早期に手続を終結できるため企業価値も劣化しにくくなり、再スタートを切りやすくなります

 

債務超過で会社を売却するときの手法

 

債務超過となっている企業が、事業だけでなく会社そのものを売却するときには、事業譲渡を含め主に次の手法が用いられます。

  • 事業譲渡
  • 株式譲渡
  • 吸収分割
  • 新設分割と株式譲渡の併用
  • 第二会社方式

それぞれ詳しく説明していきます。

事業譲渡

事業を構成する要素である、

  • 資産
  • 負債
  • 契約
  • ノウハウ
  • ブランド

などの権利義務を売買取引契約で買手企業に譲り渡すこと「事業譲渡」といいます。

譲渡された事業は、その事業を買い取った企業と一体化することになります。

事業を譲渡するにあたり、それぞれの権利・義務を個別に買手企業へと移転する手続が必要となるため、比較的規模の小さい事業を売るときに用いられることが多い手法といえるでしょう。

事業譲渡のメリットは譲渡対象を選ぶことができることであり、売手企業は会社から切り離したい部分を売り、買手企業は買い取りたい部分だけを取得できます。

経営の足かせになっているノンコア事業だとしても、買手企業にとっては買収する価値のある事業であれば、双方が納得の上で事業を売買でき、どちらも財務健全化を目指すことが可能となります。

株式譲渡

「株式譲渡」とは、株式を買手企業に売却し、会社の経営権・支配権を譲り渡すことです。

売手企業は買手企業の子会社として存続でき、他の手法よりも手続も簡便なので、利用しやすい手法ともいえます。

ただし株式譲渡の場合、買手企業は売手企業の負債も引き継ぐこととなるため、マイナス分も補うことができる「シナジー」の創出が期待できなければ、買手企業には何の旨みもない手法です。

そして売手企業にも潜在的価値があることが必要とされるため、他の手法よりもハードルの高い売却手法といえます。

価値が認められる企業なら、会社全体を売却することで従業員の雇用も維持でき、株主にもまとまった対価が入ります。

吸収分割

事業譲渡と同じく、事業を構成する権利・義務を買手企業へ譲渡する手法「吸収分割」で、事業譲渡同様にノンコア事業を切り離すときなどに活用できます。

ただし事業譲渡と異なるのは、会社法に基づく方法で取引が行われるため権利・義務がまとめて承継されることであり、個別に移転する手続は必要ないことといえます。

新設分割と株式譲渡の併用

譲渡対象事業を買手企業と一体化する事業譲渡や吸収分割ではなく、新設分割と株式譲渡を組み合わせることで子会社として傘下に置くこともできます。

「新設分割」とは、会社から事業の一部を切り離し、切り離した事業をもとに新会社を設立する手法です。

譲渡対象となる事業を新設分割で新会社に移し、新会社の株式を買手企業に譲渡することで、売手企業の事業の一部を買手企業の子会社にすることができます

第二会社方式

「第二会社方式」とは、主に次の流れで実施される会社売却の手法です。

  1. 収益性・成長性のある優良な事業とそれ以外の部分に分ける
  2. 優良な事業を受け皿となる会社へ承継させ、買手企業に受け皿会社の支配権を譲渡する
  3. 売手企業に残った事業を清算する

②では事業譲渡・吸収分割・新設分割と株式譲渡を組み合わせた手法を用いることになります。受け皿となる関連会社などの既存企業や新設会社に、事業譲渡・吸収分割で優良事業を譲渡、または新設分割で新設会社に優良事業を承継させ、受け皿となる会社または新設分割設立会社の株式をスポンサーとなる買手企業に譲渡します。

③の段階において、優良事業を譲渡することで得た対価は債務の弁済に充てることになります。完済できないときには、債権者と協議を行い、債務整理や破産・特別清算などの法的整理を行います。

コア事業を売却し、その他の事業を清算するときに用いられる手法「第二会社方式」といえます。

コア事業の売却対価を債務の弁済に充てることが可能であり、清算の協議・手続をスムーズに進めることが可能となるでしょう。

 

債務超過で会社を売却するときの注意点

会社を売却する手法はM&Aにより実施されますが、売手企業と買手企業の利害はもちろんのこと、取引先・従業員・債権者など「ステークホルダー」との利害も問題になります。

債務超過の企業の場合、売却するときには特に債権者との利害を調整することが必要となるでしょう。

スキームとして吸収分割や新設分割を行うときには、会社法に基づいた「債権者保護手続」も必要です。

一定期間を設け、その間に債権者からの異議を受付けることとなり、債務弁済や担保提供などの対応も求められることになります。

債務整理を必要とする場合には、債権者から売却について十分に理解を得ることが必要となり、理解を得ることができなければスムーズに取引を進めることはできません。

詐害行為となれば取り消しを請求される

事業譲渡・吸収分割・新設分割で会社の主要事業が別の会社へと移ったとき、売却企業に残された債務の債権者は、実質的に債務弁済を期待することができなくなるでしょう。

破産や民事再生などの法的手続として適正に行われれば問題ありませんが、売手と買手の協議だけで債権者を害することになるとわかっていても行われたときには、債権者から詐害行為の取り消しを裁判所に請求される可能性もあります。

事業を譲渡したのに債務履行の請求を受けるリスク

債権者を害することになるとわかっているのに吸収分割・新設分割を行ったときには、債権者は売手企業以外に、事業を承継した買手企業にも債務の履行を請求することが可能です。

このような事態を回避するには、債権者の利害も勘定に含めた上で協議を行い、納得してもらった上で売却することが必要となります。

 

債務超過で事業譲渡や会社売却するときのポイント

債務超過でも事業譲渡や会社売却は不可能ではないとはいえ、簡単に実施することはできません。

事前にしっかりと対策を立てておいた場合でも、買い手となる相手企業が見つからないこともあり、満足できる条件で売ることができなくなる可能性もあります。

そのため、債務超過で事業譲渡や会社売却するときには、成功の可能性を高めるためにも次のポイントを押さえて実施するようにしましょう。

  • 明確な譲渡の戦略を立てておく
  • 収益性や将来性の見込める事業のほうが売却しやすい
  • 債務は事前に減少させておく
  • 相性のよい相手企業を探す
  • シナジー効果を見込める企業に打診する
  • 技術やノウハウなど無形資産の価値を高めておく
  • できるだけ余裕のあるときにアクションを起こす

それぞれ詳しく説明します。

明確な譲渡の戦略を立てておく

会社売却には主に次の3つの方向性から選ぶことになるでしょう。

  1. ノンコア事業を切り離し、売却してコア事業は継続させる
  2. 自社全体を売却する
  3. コア事業を切り離し、売却して残った事業を清算する

どの方法を選ぶかは、自社をしっかりと分析し、強み・弱み・財務や債務の実態を明確化することが必要です。

その上で、①~③のどれがもっとも最適か、戦略的な態度で見極め手続を進めていくことが重要といえます。

収益性や将来性の見込める事業のほうが売却しやすい

事業譲渡では事業の一部だけを選択して売買できるため、収益性や将来性の高い事業だけを売る戦略を用いることで、たとえ債務超過でも買手企業を見つけやすくなります。

債務は事前に減少させておく

できるだけ債務を事前に減らしておくことにより、買手企業が背負う負債や倒産リスクを軽減させることができます。

たとえ債務超過が解消されない場合でも、少しでも債務を減らすことは大切なことといえるでしょう。

債務を減少させるには、

  • 銀行などの債権者に債権を放棄してもらう
  • 私的整理を実行する

といった方法があります。

相性のよい相手企業を探す

買取企業から、潜在的な収益性の評価が高ければ、高額で会社を売却することが期待できます。

潜在的な収益性を高く評価するということは、経営統合で大きなシナジーの実現が可能であると期待していることを意味します。売却することでシナジーが実現されれば、買手企業に引き継がれる人材にとっても望ましい結果となり、従業員をより効果的に守ることが可能となるでしょう。

シナジー効果を見込める企業に打診する

事業とシナジー効果を買手企業に打診することも、債務超過で事業譲渡を実現する有効な戦略です。

シナジー効果とは複数の事業が組み合わさり大きな効果を生み出すことですが、売上高が各社の合計より大きくなったときに発揮されているといえるでしょう。

このシナジー効果が見込めることのできる事業なら、割高な金額を提示したとしても買収を希望する企業が見つかりやすくなると考えられます。

技術やノウハウなど無形資産の価値を高めておく

すぐに事業を譲渡する必要はないと考えているのなら、まずは技術やノウハウなど「無形資産」の価値を高めておいたほうがよいでしょう。

最終的な買収価格は、貸借対照表に記載されていない無形資産も考慮した上で決まります。

たとえ債務超過の場合でも、収益性や希少性の高い技術・ノウハウ・販売網などがあれば、買い取りたいと希望する企業が見つかりやすくなるでしょう。

特に買手候補となる企業のニーズに合致する無形資産を保有していれば、相場を大幅に上回った金額で売却可能となることも期待できます。

できるだけ余裕のあるときにアクションを起こす

債務超過が続けば続くほど、企業価値は毀損されることになっていきます。

ステークホルダーに対してだけでなく、社会的な信用も失うことになればさらに企業価値は低迷することとなり、結果的に事業や会社を売却したいと希望しても買い手となる企業は見つかりにくくなるでしょう。

買い手も見つからず、倒産間近という状況に陥ってからでは、よい条件で会社を受け入れてくれる企業を見つけることはさらに期待できなくなります。

中長期的な展望で事業譲渡や会社売却を選ぶときにも、主要な経営戦略としてとらえ、できるだけ希望する条件で売却できるタイミングを逃さず行動することが大切といえます。

 

まとめ

「債務超過」とは、負債総額が資産総額を上回っている状態のことであり、貸借対照表の「資産の部」と「負債の部」を比較すれば確認できます。

債務超過に陥り、このままでは解消は難しいと頭をただ悩ませているだけでは、会社を再建することはできません。

そこで検討したいのが事業譲渡や株式譲渡による会社の売却ですが、「事業譲渡」は一部の事業だけを売買するときに用いられる手法であり、会社ごと売却するときには経営権を手放す「株式譲渡」が活用されます。

しかし事業譲渡や会社売却を検討する場合、倒産や廃業よりもいろいろなメリットが存在する反面、リスクもあることを留意しておくべきです。

債務超過ではなく単なる赤字だったとしても、その状況が続けば負債がかさむこととなり、純資産は切り崩されいずれ債務超過に陥る、または運転資金がショートすることになります。

債務超過で事業譲渡を行うことのメリットは、

  • 事業譲渡により得た資金で債務返済が可能になる
  • 従業員に安定した環境で働いてもらうことが可能になる

という2つです。

反対にデメリットとして、

  • 事業を売ったとしても債務は残ること
  • 詐害行為とみなされるリスクがあること

などが挙げられます。

いずれにしても早期のうちに売却の可能性を検討しておくことが得策ですが、債務超過といってもそれぞれに適した会社売却の方法・戦略があり、買手企業との相性も成否を分ける重要なポイントとして把握しておきましょう。