ロシアのウクライナ侵攻による製造業への影響とは?偽装半導体出回りと特許出願状況

ロシアによるウクライナへの軍事進攻が続いていますが、ウクライナ情勢は日本にも大きな影響を与えています。

特に製造業への影響が大きく、以前から問題となっている半導体がさらに不足してしまうことが問題視されているようです。

偽装半導体が出回り、誤って電子機器に組み込まれれば事故や故障になりかねないため、業界も対策を練らなければなりません。

さらに家電製品の中でもオーディオの値上げが顕著にあらわれており、欧州特許出願数は日本が世界3位で半導体が急伸している状況です。

そこで、ロシアのウクライナ侵攻により、製造業にはどのような影響があるのか、ここ最近の動きについて解説していきます。

 

ウクライナ情勢が日本に与えている4つの影響

ロシアのウクライナに対する軍事侵攻が続いていますが、すでにウクライナ情勢が日本に大きな影響を与えている内容は次の4つです。

  1. 小麦製品の高騰
  2. 半導体不足
  3. 金価格の高騰
  4. 原油高

それぞれどのような影響か説明していきます。

小麦製品の高騰

ウクライナ情勢が日本に大きく影響を与えている小麦の高騰。

パンやパスタなどいずれも小麦を使った製品ですが、小麦はウクライナとロシアだけで世界の4分の1の出荷量割合を占めます。

輸入小麦は主要産地で不作である影響を受け高値が続いていますが、ウクライナ情勢が緊迫化したことで製粉会社などに対する売り渡し価格を過去2番目の高い水準で引き上げることが予定されています。

そのため日本でもすでに小麦製品価格が値上がりしており、今後も高騰することが予測されます。

半導体不足

ウクライナはネオンやパラジウムなど、希少ガスの主要国です。そのウクライナがロシアに侵攻されたことで、ロシアとウクライナ両国にまたがるネオンのサプライチェーンが寸断され、ロシアに対する世界からの禁輸など経済制裁が長引くことにより、供給が途絶えさらに半導体が不足することが懸念されます。

今後さらに半導体が不足すれば、日本では次のような影響が出てくると考えられるでしょう。

  • 給湯器が故障しても交換できなくなる
  • 家電製品が入手できなくなる
  • 自動車製造が追いつかなくなる

すでに半導体の不足は問題視されていましたが、ウクライナ情勢によりさらに半導体不足が長期化・深刻化するリスクが高まっています。

金価格の高騰

金は少ない資金で購入し運用できることや、世界共通で価格変動の変化を察知しやすいなど、世界中から認められている安全資産です。

そのためウクライナ情勢が悪化したことでインフレが進み、最高値を更新しています。

原油高

ロシアは広い国土を持つ国のため、世界でも有数の天然ガス輸出国であり、重要な産油国です。

ヨーロッパに大量の天然ガスを輸出しているエネルギー大国でもあるため、ウクライナへの侵攻により世界市場の関係が今後どのように変わるか先が見通せない状況となっています。

そのためその不安感がエネルギー価格全体を押し上げることとなり、原油価格にも影響を与えているといえるでしょう。

 

特に打撃を受けているのが半導体業界

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で世界経済は深刻な影響を受けていますが、どちらも複雑に入り組んだ半導体産業のサプライチェーンの一端を担っています。

ウクライナにある半導体関連メーカーが操業停止してしまい、世界的に半導体不足に拍車をかけることとなりました。

そのような状況で、問題となっているのが中古の半導体を新品と偽ったものや、メーカー名や型番の書きかえた「偽造半導体」です。

そこで、

  1. 偽造半導体が出回ることとなった背景
  2. 偽造半導体により問題視されること

の2つについて説明していきます。

偽造半導体が出回ることとなった背景

持ち込まれた半導体の4分の1が偽造品疑いだったという報告がされるなど、偽造半導体の出回りが問題となっています。

仮に偽造半導体が電子機器に組み込まれてしまえば、事故や故障を起こすことになりかねないため、業界でも対策が急務となっています。

半導体製造には気体ネオンが欠かせませんが、この気体ネオンを生産しているウクライナの会社も、戦争が起きたことで生産工場を停止することを決めたようです。

操業を止めたウクライナ企業は他にも複数あり、これらの企業だけで世界シェアのほぼ半分を占めるとされています。

そもそも半導体は新型コロナウイルス感染拡大による影響で、世界的な供給不足が続いていました。

しかしロシアのウクライナ侵攻により、さらに影響が拡大され半導体が不足することが懸念されています。

半導体は家電製品の他、スマートフォンやゲーム機、自動車など様々な製造機器に組み込まれます。

産業の必需品とされ、「産業のコメ」と呼ばれるほど重要ですが、以前から廃棄された規格外品の横流しやリサイクルの中古品が新品とされる偽造品の出回りが問題となっていました。

そこにECの普及などが関係し、偽造品出回りが広がったとも考えられています。

偽造半導体により問題視されること

偽造半導体は、正規品と外見は区別がつきにくいものの、X線で調べれば内部の配線の形や大きさなどが微妙に異なります。

正規代理店を通さずに調達することで偽造半導体を入手してしまう例が増えており、正規品を手にいれにくくなっている状況につけこんだ商売が横行していると考えられるでしょう。

偽造半導体は品質の保証はされず、製品のリコールにもつながりかねません。

電機大手OKIの子会社である沖エンジニアリングでは、2021年6月から半導体の真偽を判定するサービスを開始しています。

X線による内部観察だけでなく、中身を露出させ顕微鏡で配線を確認していきます。

月70~80件ほどの判定依頼のうち、4分の1が偽造またはその疑いがあるとされ、家電メーカーなどが仕入れた半導体について月100件ほどの問い合わせがあるということです。

劣化品実装で製品から発煙するといった事故も懸念されますが、今後、さらに半導体生産が滞ればその数はますます増えることが懸念されます。

 

家電のうちオーディオ製品価格の値上げが顕著に

顕著化する半導体不足により、大手のオーディオ各社では国内向け家電の出荷価格を引き上げました。

ここ数年、オーディオの出荷減少が続いていますが、半導体不足により他業種よりも競争力が激化しており、ソニーグループは2022年4月1日から国内向け家電出荷価格を引き上げるとしています。

その背景で、オンキヨーホームエンターテイメントは、2022年3月28日、子会社2社の破産手続決定を発表しました。

スマートフォンの台頭で据え置き型を中心とし、オーディオ離れの加速が大きな要因と考えられますが、半導体不足が追い打ちをかけることになったといえます。

ソニーの値上げ対象となるのは、サウンドバーやホームシアターシステムなどオーディオ・カメラ・ブルーレイ・ディスクプレーヤーなど109製品です。

国内向け出荷価格が3~31%値上げされますが。このような大規模値上げは7年ぶりであり、主に製品寿命が長いものが対象とされます。

事業環境が厳しくなる中、値上げに追い込まれたオーディオ各社ですが、たとえ値上げしても消費者に受け入れられるかなど商品力が試されているといえるでしょう。

オーディオ製品の値上げが顕著になっている理由として挙げられるのは次の3つです。

  1. 数年前のコスト計算では見合わない
  2. 半導体の調達先が特定企業へ集中しやすい
  3. 物流コストの急激な上昇

それぞれ詳しく説明します。

数年前のコスト計算では見合わない

新製品が毎年販売するものは都度価格調整が可能である反面、数年前のモデルを継続して販売するオーディオ製品などは数年前のコスト計算では採算が取れないことが関係しているようです。

他にもオーディオテクニカなども4月からプロ向けヘッドホン・プロ向けのマイクなど12製品が3~19%値上げとなり、比較的主力のモデルの値上げが見られます。

ディーアンドエムホールディングスも1月下旬に価格の引き上げを発表していましたが、供給のめどが立たなかったため同モデルの受注を停止したという動きも見られ、厳しい状態が続いています。

半導体の調達先が特定企業へ集中しやすい

オーディオで使用される半導体は音作りに直結するため、比較的、趣向性が高いものとされます。

汎用性の高い半導体より部品調達先が特定メーカーに集中しやすいことも、価格高騰につながったといえるでしょう。

その結果、多くの企業が価格を引き上げや供給停止などの動きを見せています。

物流コストの急激な上昇

海外からの配送コストは、通常の2倍程度になるなど、物流コストの急激な上昇も影響しています。

たとえば1台300~500万円のアンプの場合、送料は通常の2倍となれば20万円程度に跳ね上がります。

資材や送料の高騰で、本来希望する価格で販売できず、半年に1回程度しか価格を動かすことのできないオーディオの場合、日々のコスト上昇で、半年先を見据えた値付けでも上げ幅よりコスト上昇が上回るといった状況となっています。

それに加え急激な円安進行が重荷となり、たとえ物価が高くなっても購入する海外顧客より、日本の顧客の動きは鈍いままとなっているようです。

 

半導体急伸で日本の欧州特許出願数は世界3位に

欧州特許庁(EPO)は、ドイツ時間2022年4月5日に「2021年 EPO特許レポート」を発表しました。

レポートによると。EPO全体で2021年に特許出願にあった件数は2020年比4.5%と過去最多を記録したそうです。

その中で出願件数が最も多かった分野はデジタルコミュニケーションで、2020年比9.4%増となっています。

2位は医療技術、3位はコンピュータ技術で、半導体は件数自体が比較的少ないものの、前年比21%増とこれまでにない伸びを見せたようです。

国別でみると、米国・ドイツ・日本と件数の多さが目立ちます。

日本の場合、前年比1.2%減ですが、欧州特許出願総数の11.5%を占める日本はアジア地域では1位で、EPOへの特許出願も引き続き活発な国です。

日本の欧州特許出願件数の上位15分野のうち、1位は電気機械・エネルギーで特にクリーンエネルギー技術関連の特許が多かったとされています。

続いてデジタル通信関連)が多く過去最多の出願件数を記録しており、続く運輸部門を初めて上回りました。

上位15の技術分野の中で最も件数が伸びたのは半導体であり、前年比20.9%増で出願数は過去5年間で最多、伸び率は過去10年間で最高とされています。

半導体分野の日本企業の出願数は全体の16%を占めるなど、半導体不足による影響が特許の出願数にも影響を与えていると考えられるでしょう。

なお、日本の出願数で世界1位となったのは、次の4分野です。

  • 高分子化学、高分子材料
  • 材料・冶金
  • 繊維・製紙機械
  • 表面技術、コーティング

企業別にみるとソニーが2年連続で、EPOでも世界8位の特許出願者となっています。

日本企業だけでみたときには、トップがソニー、さらにパナソニック・日立製作所と続きます。

EPOの特許出願件数上位50社のうち、日本企業はソニー・パナソニック・日立製作所・キヤノン・三菱電機・富士フイルム・NTTドコモが名を連ねています。

 

不足する半導体にどのように対策を練るべきか

世界的な半導体不足は短期的に解消されるとは考えにくく、コロナ禍による生産への影響やロシアのウクライナ侵攻で断続的に続くことが予想されます。

半導体需要と供給の不均衡への対処に向けて、どのように対策を練ればよいのでしょう。

たとえば自動車業界を例にした場合、需要に追いつかないと考えられるため、半導体関連の調達に関する契約を見直す必要があると考えられます。

バリューチェーンに沿ってバランスのとれたリスクシェアリングプランを導入し、ジャストインタイムの納品と低い在庫水準などの慣行を部分的には見直すことが必要になる可能性があります。

様々なチップを調達する戦略だけでなく、認定プロセスにおいても調達機会を拡大し製品の信頼性のバランスをとるための条件など再検討が必要になるかもしれません。

 

まとめ

新型コロナウイルス感染拡大の影響だけでなく、ロシアのウクライナ侵攻により様々な業界が打撃を受けています。

特に半導体を扱う製造業はその影響が大きく、どのように正規品を調達するかが問題となるでしょう。

アメリカのロシアへの追加制裁なども続いているため、今後は常に情報を集中し、戦略や対策を検討することが必要となります。

コロナ倒産が増えた中で、ウクライナ情勢による事業継続を断念しなければならなくなる企業も増える可能性も出てきました。

もし手元の資金などが足らなくなり、このままでは倒産危機に危ぶまれるというときには、売掛金を現金化するファクタリングなどもうまく使うことを検討してみてください。