ロシアのウクライナ攻撃はなぜ起きた?日本に及ぶ様々な影響をわかりやすく解説

ロシアのプーチン大統領は停戦協定を破棄し、ウクライナ東部で親ロシア派の武装分離勢力が実効支配している2つの地域に対し「共和国」を承認し、陸・海・空からウクライナ侵攻を一斉に開始しました。

欧州の民主国家に対する壊滅的な攻撃を仕掛け、各地の都市中心部を爆撃し、首都キエフに迫っています。

欧州の平和を打ち砕く行為といえますが、なぜプーチン大統領はウクライナを攻撃しているのか、今日本にどのような影響が及んでいるのかお伝えします。

 

プーチン大統領がウクライナを攻撃するに至った理由

2022年2月24日の夜明け前、プーチン大統領は今のウクライナがロシアの脅威であり、国を安心して発展し存在させることができない主張しました。

その主張からウクライナ各地は攻撃を受けることとなり、戦車や部隊が侵攻するようになったのです。

プーチン大統領はこの攻撃について、「戦争」や「侵攻」ではなく、威圧され民族虐殺に遭っている人たちを守るためとしています。

 

ロシアとウクライナの関係

もともと30年前まではロシアとウクライナは「ソビエト連邦」という世界最初の社会主義国を構成する15の共和国の1つでした。

しかし1991年12月25日に崩壊し、ソビエト連邦を構成していた15の国はそれぞれ独立した国家として国旗や国歌が制定され、新たな歩みをスタートさせることとなります。

ただ、ロシアはソビエト連邦崩壊から30年経っても同じ国だった意識を持っており、特にウクライナに対しては特別な意識があると言われています。

8世紀末から13世紀にかけてはウクライナやロシアなどにまたがる地域に「キエフ公国(キエフ・ルーシ)」と呼ばれる国家があり、その中心的都市が現在のウクライナの首都キエフです。

そのような歴史を背景として、ソビエト連邦を構成した国の中でも、ウクライナに対しては同じルーツを持つ国という意識があるとされています。

ウクライナは東西で分断されている

ロシアと隣接するウクライナ東部にはロシア語を話す住民が多く、ロシアとは歴史的なつながりが深い地域といえます。

しかしウクライナ西部はオーストリア・ハンガリー帝国に帰属し、カトリックの影響が残ることからロシアから独立志向を強く持っている地域です。

同じウクライナでも東西は分断されている状況ですが、その中でプーチン政権は東部のロシア系住民を通じ、影響力を及ぼそうとしてきました。

2004年のウクライナ大統領選挙でも現地にプーチン大統領が2度乗り込み、東部を支持基盤としたロシア寄りの政策を掲げた候補を応援するといったことも行っています。

2014年に欧米寄りの政権が誕生した際には、ロシア系住民が多く戦略的要衝でもあるウクライナ南部のクリミアに軍の特殊部隊などを派遣し、一方的に併合したという経緯があります。

 

「NATO(北大西洋条約機構)」の東方拡大も理由の1つ?

プーチン大統領のウクライナ攻撃には、「NATO(北大西洋条約機構)」の東方拡大も関係していると考えられています。

「NATO(北大西洋条約機構)」とは、

  • 集団防衛
  • 危機管理
  • 協調的安全保障

を中核的任務とした加盟国の領土・国民防衛を最大の責務とした軍事同盟で、東西冷戦時代にアメリカなどがソビエト連邦に対抗するためつくりました。

ソビエト連邦崩壊後は、共産主義圏だった国を民主主義に拡大させる役割も担うようになりましたが、東欧諸国などが経済的に豊かな民主主義陣営に入ることを望んでいたことも関係しています。

その結果、1999年にポーランド・チェコ・ハンガリー、2004年にはバルト3国などが加盟するといった「東方拡大」の動きが盛んにみられるようになりました。

ウクライナ・モルドバ・ジョージアなどにも欧米寄りの政権が誕生するようになり、NATOへと接近する姿勢を見せています。

ロシアにとって東方拡大は脅威

ロシアは過去に西側から陸を通じて攻め込まれてきた歴史があることから、東欧諸国は緩衝地帯と考えているとされています。

そのためNATOが東方拡大することに対し抵抗感を抱いてはいたものの、ソビエト連邦崩壊してしばらくは明確に否定や反対を表明してはいなかったようです。

しかし2006年に旧ソビエト時代の債務を完済させ、翌2007年にドイツのミュンヘンで行ったプーチン大統領の演説では、NATOの東方拡大に対し公の場で初めて批判しています。

ジョージアやウクライナのNATO加盟についても強くけん制していますが、これには1990年代当時のアメリカの国務長官とソビエトのゴルバチョフ書記長との間の口約束が関係しているようです。

1990年、東西ドイツが統一するときに東ドイツ駐留のソビエト軍10万人を撤退させるため、アメリカのベーカー国務長官がゴルバチョフ書記長に対しNATOを東に拡大しない趣旨の約束をしたとされています。

そのためウクライナのNATO加盟を含む東方拡大は「約束違反」であるとプーチン大統領は厳しく批判していますが、口頭での約束であったため文書が残されているわけではありません。

 

停戦に向けた交渉も進まず

2022年3月8日時点で、ロシアとウクライナは停戦に向け、3回目の交渉を行ったものの双方の立場の隔たりは埋まっていません。

そのような中で、トルコ政府がロシアのラブロフ外相とウクライナのクレバ外相を招き、10日にトルコで3者会談を行うことを発表しています。

トルコが仲介役となり交渉が進むことが期待されますが、プーチン大統領はウクライナの「非軍事化」と「中立化」について受け入れられなければ軍事作戦は停止しないと主張しているため、今後どのような状況となるかは不明です。

中国の習近平国家主席の反応

8日午後には中国の習近平国家主席・フランスのマクロン大統領・ドイツのショルツ首相がオンライン形式で会談を行っています。

その階段で習近平国家主席は、中国はフランスやドイツなどと協調しつつ、関係国の必要に応じながら積極的な役割を果たしていきたいと述べたようです。

ただ、制裁は世界の金融・エネルギー・交通・サプライチェーンの安定に打撃を与えることとなり、各国にも不利なることを述べており、ロシアへの制裁には反対する考えを示しています。

ロシア通貨「ルーブル」の急激下落によるデフォルト危機

ロシアの通貨である「ルーブル」が急激に下落し、ルーブル安となっているためロシア国内の輸入品価格が高騰し、日本から輸出しても買い手がつかなくなるリスクも発生しています。

ロシア政府は米国・欧州連合(EU)・英国・韓国・日本などを「非友好的な国家・地域」リストの対象とし、ウクライナ・スイス・オーストラリア・ニュージーランド・シンガポール・台湾なども対象に含んでいます。

リストに含まれた国の市民・企業・ロシア企業のすべての取り引きはロシア政府の承認が必要としています。

これらの国々に債務があるロシア企業・市民・地方自治体などはロシア通貨ルーブルで債務を履行してよいとする政府令を公表しました。

ロシアへの制裁に参加した国に対し制裁を行うことを意味しており、ドルが不足するロシア企業が外貨表示債権の代金をルーブルで支払うことで、デフォルト危機を乗り切る考えもあるようです。

また、ロシア企業から受け取る代金がある産業などはルーブル暴落で為替差損を大きく被っている状況となり、本来ならドルで受け取るはずだった輸出代金まで価値が半減したルーブルで受け取ることとなります。

国際社会の金融制裁でルーブルの価値は下がり続けると予測されており、投資家などの被害も今後さらに膨らみかねない状況です。

 

様々な産業や業界への影響

ロシアのウクライナに対する攻撃が続く中で、その影響は様々な産業や業界にも及んでいます。

航空機運航への影響

ロシアに対する経済制裁の影響で、世界の航空機の運航にも影響が広がっています。

日本郵便は十分な輸送力が確保できないとし、ヨーロッパ向け「EMS(国際スピード郵便)」と、航空機を使用する国際郵便の新規引き受けは停止することを発表しました。

なお、引き受けが停止されるのは、イギリス・ドイツ・フィンランド・フランス・ベルギー・チュニジアなどの18の国と地域です。

自動車産業は工場稼働を停止

ロシアに中古車の部品を輸出している会社なども、現地と送金ができなくなるなど、先行きが不透明であるため休業を検討しています。

トヨタと日産もロシアに駐在する日本人社員やその家族の安全を考慮し、帰国指示を出す対応で工場稼働停止を発表しました。

原油・天然ガス供給停滞の影響

重油価格上昇で水産や農業の経営も圧迫しています。

ウクライナに対するロシアの軍事侵攻で、エネルギー輸出国であるロシアから原油や天然ガス供給が滞ることが懸念され、世界的に価格が高騰中です。

ロシア産ウニは市場からいつなくなってもおかしくないといえる状況であり、それに伴い北海道産やカナダ産のウニも価格が高騰する可能性が考えられます。

さらにロシア産のいくらや紅鮭などにも影響が及ぶことが予想されるでしょう。

また、植物の栽培などではハウス内の室温を一定以上に保つことが必要な場合もありますが、暖房用重油は欠かせません。

しかし原油価格上昇で暖房に使用する重油価格が昨年の3割ほど高くなるなど、コスト負担に苦しむ農家なども少なくないようです。

原油価格の高騰は銭湯などにも影響を及ぼしています。

新型コロナウイルス感染拡大により利用客数が減少傾向にあるのに加え、入浴料金は自治体が決めることから、事業者判断で自由に値上げすることもできず、経営を圧迫する要因になっているようです。

動物園などで干し草などはアメリカからの輸入に頼っているケースでは、原油高で輸送費が高騰し、干し草の価格も値上がりするなどコスト負担が厳しくなっています。

ここ最近の急激な原油価格の高騰が反映されれば、2022年4月以降の価格改定により、さらに値上がりすることも予想されます。

野菜や果物などの調達コストも上昇すると考えられますが、動物の健康を保つためには量を減少させることは厳しいため、近隣農家から果物や野菜を寄付してもらうなどで補っている動物園もあります。

日本のロシア原油輸入禁止はG7と歩調を合わせる対応に

アメリカのブリンケン国務長官が、ヨーロッパ各国や同盟国と協調しつつロシア産原油の輸入禁止に向けて検討を進めていることを明らかにしています。

2022年3月8日、萩生田経済産業大臣もG7と歩調を合わせ、適切に対応していきたいとと述べました。

ロシアに対する制裁強化に伴い、自動車排ガス抑制に向けたパラジウムなどレアメタル・希少金属の調達が難しくなることに懸念が強まっていますが、これについても一定の在庫があるだけでなく他国からも調達可能なため今の時点では主要企業から製品製造に影響があるとは聞いていないと述べています。

ウクライナで軍事行動開始により情勢は著しく悪化しており、子どもや民間人を含めた多くの犠牲者が出ています。

安全を求めて国境を越えるウクライナの方たちが難民となり、ポーランド・ハンガリー・ルーマニア・モルドバなど隣国に避難を強いられている状況です。

ウクライナの人々は緊急の支援を必要としているため、サポートをしたい、手を差し伸べたいという方も少なくないことでしょう。

世界銀行もウクライナに対し、日本や欧州諸国と協力して総額約830億円の緊急支援を実施することを発表しており、日本からの融資1億ドル分が含まれます。
病院職員に対する給与や年金・社会保障関連事業など、ウクライナ政府が国民に公共サービスを提供し続けるのに必要な支援を行っていくようです。

新型コロナウイルス感染拡大の影響ですでに打撃を受けている産業や業界が多い中、ロシアのウクライナ攻撃でさらに市場が悪化することも予測され、先行きはさらに不透明な状況となっています。

ウクライナに対する支援も行いたいけれど、まず自社の従業員を守らなければならない状況にある経営者など、苦しい立場であることでしょう。

特にロシアとの取引がある場合、決済面での悪影響を懸念する企業も少なくないため、ロシアの取引先から代金受け取りが滞れば収益が悪化してしまいます。

仮に現地オーナーから入金確認後に商品を出荷しているケースでも、代金のやりとりが停滞すれば商品供給が滞ってしまいます。

今後、ビジネスにもどのような影響が出るのか不透明であり、ウクライナの方たちに対する支援を希望する声もありますが、今後の情報については注視し続けることが必要と考えられます。