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2021.01.07 / 最終更新日:2021.01.07

平31(ワ)7026号 損害賠償等請求事件(本訴)

1 事案
 本件は、客が売掛債権早期資金化業者に対し、二者間売掛債権早期資金化が債権譲渡担保付き金銭消費貸借契約であることから、貸金業法違反(無登録の貸金業である)及び出資法違反(上限利率を大幅に超える)により公序良俗に反して無効並びに貸金業法42条1項により無効であるとして不当利得返還請求を、また、貸金業者として取引履歴を開示しなかったことなどが不法行為に当たるとして慰謝料の請求をしたところ、これらは認められず、逆に、売掛債権早期資金化業者から取立金の引渡しと遅延損害金の支払いを求められ、これが認められた事案である。
2 争点に対する判断
⑴ 二者間売掛債権早期資金化は債権譲渡担保付き金銭消費貸借契約ではなく債権の売買契約である
客の主張する、公序良俗違反(貸金業法違反及び出資法違反)、貸金業法42条1項による契約無効、及び貸金業者として取引履歴開示義務は、いずれも二者間売掛債権早期資金化が「債権譲渡担保付き金銭消費貸借契約」であることが前提となっており、また、売掛債権早期資金化業者の客に対する反訴請求も本件の取引が債権の売買契約であることに基づくため、この点が争点として判断された。
⑵ 担保目的の推認との関係で考慮された観点(①二者間売掛債権早期資金化の構造的リスクの買取率への影響、②平成18年最高裁判決との比較、③債権額の7~8割程度の代金額)
担保目的の推認との関係では、①法形式の選択、②対抗要件の具備の猶予、③代金額が債権額の7~8割程度、という観点が考慮されている。
①については、債権の譲渡が担保目的でないことが明記されていること、第三債務者に着目した審査基準を元に買取価格が決定されていること、売掛債権早期資金化業者が客に対する償還請求権を有していないこと、買戻しが予定されていないことなどを挙げ、当事者があえて債権の売買契約という法形式を選択しており、実質的にも、譲渡債権に関する債務不履行リスクが客から売掛債権早期資金化業者に移転していると評価されている。この点、本件では、二者間売掛債権早期資金化の構造的リスク(客に取立てを委任することに伴うリスク)が「一般的に」買取率に影響しうるとしても、客「固有」の信用リスクを考慮していたとは認められないとして、かえって、債権の審査基準は専ら第三債務者に関する信用リスクのみを考慮されていたことが挙げられていることが特筆に値する。
②については、上記猶予はいつでも撤回することができ、実際に債権譲渡通知書の作成等の債権譲渡通知の準備がなされており、売掛債権早期資金化業者の判断において通知可能であったことから、その債権譲渡についての権利行使が制限されていたということもできない、と認定されている。そして、本判例の最も特筆すべき点として、平成18年最高裁判決(買戻特約付売買契約の形式を採りながら目的不動産の占有の移転を伴わない契約については、特段の事情がない限り債権担保の目的が推認される)との比較において、(債務者)対抗要件の具備の猶予が担保目的であることを推認する事情かどうかについて、裁判所は、「法があえて債権譲渡登記制度を設けて第三者対抗要件のみを具備することを可能としたことからすれば,債権の真正売買を前提としても,債権譲渡通知・承諾が猶予されて原債権者が債権の回収を行うことは想定されている」として、同事情が担保目的を推認しないと判断した。
③については、売掛債権早期資金化業者が「第三債務者の無資力のリスクを負っているにも関わらず,第三債務者に対する債権譲渡通知を留保する関係上,第三債務者に対する直接の信用調査が困難であることに照らすと,その差額は担保目的を推認させるような大幅なものということはできない。」として、概ね債権額面の7割から8割程度の売買代金を許容している。
3 講評
⑴ 本件は、公序良俗違反(貸金業法違反及び出資法違反)、貸金業法42条1項による契約無効、及び貸金業者として取引履歴開示義務といった「貸金業法違反」がメインに争われているが、その実質は、二者間売掛債権早期資金化が「債権譲渡担保付き金銭消費貸借契約」であるかどうについて、「担保目的の推認」という観点から判断されている判例です。
⑵ 上記観点①では、二者間売掛債権早期資金化の構造的リスク(顧客に取立てを委任することに伴うリスク)が「一般的に」買取率に影響しうるとしても、顧客「固有」の信用リスクを考慮していたとは認められないとされており、買取率については、顧客の個別の事情を考慮していなかったという点で、むしろ「一律」の方がよいという解釈もできます。
⑶ 上記観点②では、平成18年最高裁判決(買戻特約付売買契約の形式を採りながら目的不動産の占有の移転を伴わない契約については、特段の事情がない限り債権担保の目的が推認される)との比較がされており、その中で、法が「債権譲渡通知・承諾が猶予されて原債権者が債権の回収を行うことは想定」しているとして、二者間売掛債権早期資金化を明確に肯定しています。
⑷ 上記観点③では、債権額の7~8割程度の代金額が許容されています。この程度の買取率が、二者間売掛債権早期資金化の実務において定着したものと言えるでしょう。