2020.11.17 / 最終更新日:2020.11.17
平30(ワ)32345号 不当利得返還請求事件
1 事案
本件は、破産管財人が二者間売掛債権早期資金化を実質的に金銭消費貸借契約に当たるとして、利息制限法の適用又は類推適用により過払金の支払いを求めた事案である。
2 争点に対する判断
⑴ 二者間売掛債権早期資金化は実質的にも金銭消費貸借には当たらない
主たる争点は、二者間売掛債権早期資金化が実質的に金銭消費貸借契約に当たり、利息制限法の適用又は類推適用を受けるかどうか、であるが、裁判所は、以下の3点を積極的な理由として挙げて、破産管財人の請求を棄却する判断を下した。
⑵ いわゆる「ノンリコース型」の契約書であったこと
裁判所は、本件の売掛債権早期資金化業者の契約書の記載を指摘し、次のように判示している。
「債務者の不払による回収不能の危険は被告が負っていると認められるから,本件各取引は,借主が,債権の回収(弁済原資の調達)の可否にかかわらず借入額と同額について返還義務を負う金銭消費貸借とは性質が異なっており,債権譲渡であることを裏付けている」
これは、売掛債権早期資金化業者が主張していた、いわゆる「ノンリコース型」(債務者による債務不履行があった場合でも,買主が売主に対して買戻請求その他の責任追及をできない構造)の売掛債権早期資金化取引であることを認めたものである。
⑶ 「二者間」の形式を採っていることは実質的に金銭消費貸借であったと認めるべき特段の事情に当たらないこと
裁判所は、「二者間」売掛債権早期資金化、すなわち、第三債務者に対して債権譲渡通知をせず、客に債権回収業務を委託していることについて、次のように判示している。
「債務者に対して債権譲渡通知をせず,アライバル及び近江機電が債権回収を行っていたことについては,取引先である債務者らに債権譲渡の事実が知られることによって,アライバル及び近江機電の経済的信用が低下することを防ぐための措置と解することができ,これをもって,本件各取引が実質的には金銭消費貸借であったと認めるべき特段の事情に当たるとはいえない。」
これは、客において取引先に債権譲渡通知をされることなく資金調達をしたいという実務的なニーズがあることを認めたものと評価できる。
⑷ 債権の一部だけを買い取っていることは第三債務者の不払いのリスクを考慮してのものであること
裁判所は、次のように判示して、債権の一部だけを買い取っていることを積極に理解している。
「本件各取引において,債務者の不払による回収不能の危険は被告が負っているところ,原告らが指摘する諸点のうち,被告が原告及びアライバルの有する債権の一部(一定の金額分)のみ買取対象としていたこと(甲9,弁論の全趣旨)は,むしろ,債権買取の可否を検討するに当たり,被告が上記危険を負担することが考慮された結果であると考えられ,そうであれば,譲渡代金額の決定に当たっても,上記危険が考慮要素になっていたことが推認される。」
3 講評
二者間売掛債権早期資金化の合法性については、公序良俗に反するか、という段階と、利息制限法により過払請求が認められるか、という段階と、2段階に分かれるところ、ハードルの高い前者については認められた判例は皆無ですが、後者については、「金銭消費貸借に準ずる」としてこれを唯一認めた平成29年3月3日付けの大阪地裁の判例があります。しかし、同判例は、代金の一部しか渡していなかったという特殊事情があり、そのような特殊事情のない事案では、東京高等裁判所平成29年5月23日判決と同様に、「ノンリコース型」や「二者間」であることについて積極的に判断して後者についても合法であると判断される傾向があります。本判例もこの流れを踏襲しており、実務的に二者間売掛債権早期資金化が合法であるという評価が定着していること裏付ける判例と言えます。
本判例で特筆すべきところは、債権の一部だけを買い取っていることを積極に理解している点です。これは、第三債務者の不払による回収不能の危険を売掛債権早期資金化業者が負っているという「ノンリコース型」の契約であることを前提とするものですが、「ノンリコース型」の契約かどうかについては、本判例では契約書の記載から判断されています。