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2020.11.17 / 最終更新日:2020.11.17

平30(ワ)13432号 過払金返還請求事件

1 事案
 本件は、主位的に、二者間売掛債権早期資金化を実質的に金銭消費貸借契約に当たるとして過払請求を、予備的に、暴利行為であるとして不当利得又は不法行為に基づく請求を、それぞれ利息制限法所定の制限利率を超える部分につき求めた事案である。

2 争点に対する判断
⑴ 二者間売掛債権早期資金化は利息制限法1条の「金銭を目的とする消費貸借」とは明らかに法的性質を異にする取引である
 主位的請求に関して、本件の二者間の売掛債権早期資金化では基本契約と個別契約の形式を採っていたが、裁判所は、基本契約において「原告が被告に対して原告の有する債権を売却する取引を行うこととしてその一般的な条件を定めている」こと、実際にもその基本契約に従って個別契約が締結され、「原告と被告との間で対象債権を特定した上,売買代金額を合意して取引がされている」と認定して、「本件取引は,原告の有する売掛債権を被告に売買する債権譲渡取引であることが明らかであって,利息制限法1条の「金銭を目的とする消費貸借」とは明らかにその法的性質を異にする取引」と判断した上で、次の⑵ないし⑷のとおり、原告である客の主張を排斥した。
⑵ 第三債務者の信用状況について審査をしていたこと
 裁判所は、「本件基本契約において,原告は,被告に対し,本件債務者に関する資料及び情報,原告と本件債務者との過去の取引の状況の分かる資料及び情報の提供義務を負っていること(1条2項①及び②),被告は,平成29年2月10日,本件取引を開始するに当たって原告に対し,原告自身の財務状況等を示す資料とともに,本件債務者に対する直近の売上集計や今後2か月の売上見込み,月別の入金実績等の資料を持参するよう求めていたことが認められ,そうすると被告が本件債務者の信用状況について全く審査等を行わないまま本件取引を開始したものとはいい難い。」と判示し、客の信用状況のみを判断しているという原告の主張を排斥した。
⑶ 客が売掛債権早期資金化業者に支払っていた金銭は第三債務者から振り込まれた金銭であること
 裁判所は、「二者間」売掛債権早期資金化、すなわち、売掛債権早期資金化業者が客に対して譲渡に係る債権の回収事務を委託していたことについて、「上記原告が被告に対して振り込んで支払っていた金銭は,振込当日に本件債務者から原告に対して振り込まれた金銭であることが認められ,そうすると,上記金銭のやり取りから直ちに,原告及び被告間でのみ貸付けと返済が行われていたと評価することは困難であって,むしろ,原告が,被告から委託を受けた譲渡の対象債権の回収事務を遂行して回収された金銭を被告に支払っていたものと見るほかない」と判示し、金銭のやり取りが客と売掛債権早期資金化業者との間でのみされているという原告の主張を排斥した。
⑷ 売掛債権早期資金化業者が第三債務者からの回収リスクを負っていたこと
 裁判所は、「本件基本契約は,本件個別契約の締結後は,被告において本件個別契約に係る債権を債務者から回収するものとし,本件個別契約に係る債権の全部又は一部が債務者の債務不履行,支払不能又は支払停止により取立不能とされる場合においても,原告が本件基本契約に違反した場合を除き,原告は被告に対して何らの責任を負わない旨定めている」と認定し、「本件取引において,譲渡に係る債権の回収リスクを原告のみが負っているということは困難というほかない」と判示して、債権の回収リスクを客のみが負っているという原告の主張を排斥した。
 なお、裁判所は、「もともと上記回収業務の委託は,原告が債権譲渡通知が被告から債務者にされることを希望しなかったことに配慮して合意されたものである」と認定して、「二者間」売掛債権早期資金化の形式を採っていることについても客にのみ譲渡に係る債権の回収リスクを負わせたとまでいうことは困難であるとし、また、基本契約の各規定を詳細に検討し、「上記各規定の内容は,いずれも本件個別契約に基づき譲渡された債権について,原告自身によるこれと矛盾する処分行為を禁止したり,本件債務者から抗弁をもって対抗された場合に備えたりするものと考えられ,上記各規定が,債権の譲渡人としての原告の法的責任をことさらに加重しているとか,被告に不必要なほどに広範な解除事由を定め,更に解除された場合の原告の義務を不必要に拡張するなどして被告が回収リスクを負わないように仕組んでいるということは困難」であるとも判示している。
⑸ 暴利行為に当たらないこと
 予備的請求に関しても、裁判所は、「本件個別契約における各譲渡代金額が,譲渡に係る債権額に比して著しく低額であるともいい難い」ことなどの認定をし、暴利行為であるという原告の主張を排斥した。
なお、裁判所は、「被告からの入金額をもってその前の本件個別契約に係る債権額の支払に充てられていたこともあり得ると考えられるけれども」という可能性も考慮しつつ、「本件債務者からの入金のうち譲渡された債権額を被告に振込をしたその日に被告からの振込がされていた」という認定もしている。

3 講評
 二者間売掛債権早期資金化の合法性については、公序良俗に反するか、という段階と、利息制限法により過払請求が認められるか、という段階と、2段階に分かれるところ、本件は、よりハードルが低いと考えられる後者について集中的に争われた事案でしたが、それでも裁判所は二者間売掛債権早期資金化が合法であることに軍配を上げました。
 その判断の根底にあるのは、上記2の⑵ないし⑷に挙げられている「ノンリコース型」の考え方です。つまり、貸金(金銭消費貸借)というためには、顧客がその責任財産をもって返済しているという事情が重要であるところ、買い取った債権の限りで回収している二者間売掛債権早期資金化では何を引当てにしているかという点において明らかに矛盾するのです。その際、本判例において争点となっている、「第三債務者」の信用状況の審査(同⑵)、「第三債務者」から振り込まれた金銭で支払いがされていたこと(同⑶)、「第三債務者」からの回収リスクを負っていること(同⑷)、という、顧客ではなくあくまで「第三債務者」の責任財産に目を向けていたことが評価のポイントとなりました。
 上記の「ノンリコース型」の考え方を重視する本判例も、これと同様の視点を持つ東京高等裁判所平成29年5月23日判決の流れを汲むものであり、二者間ファクタリグが利息制限法1条の「金銭を目的とする消費貸借」に当たらないことを明言した点でも重要な意義を有する判例となりました。