2020.11.17 / 最終更新日:2020.11.17
平29(ワ)7263号・平29(ワ)21998号 供託金還付請求権確認請求事件
1 事案
本件は、二者間売掛債権早期資金化において、売掛債権早期資金化業者、客の破産管財人、租税滞納で差し押さえた国、及び二重譲渡先が四つ巴で供託金について争った事案である。
2 争点に対する判断
⑴ 二者間売掛債権早期資金化は合法
争点は多岐にわたるが、裁判所は、まず、二者間売掛債権早期資金化について、「実質的に金銭貸付けと同視し得るとまではいえず」、「公序良俗に違反し無効であるとは認められない。」として、合法の判断をしている(「債権譲渡において,債権の額面金額と債権の売買代金額が一致しないことは当然」とする売掛債権早期資金化業者の主張を認め、他方、破産管財人の「高利」であるという主張は、そもそも実質的に金銭の貸付けに当たらないことから排斥している。)。
⑵ 二者間売掛債権早期資金化の特徴を挙げて売掛債権早期資金化業者に譲渡禁止特約の有無につき「重過失」はなかったと判断
次に、裁判所は、本件で二者間売掛債権早期資金化の対象となった債権には譲渡禁止特約が付されていたところ、「譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者は,同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有しないから,特段の事情がない限り,その無効を主張することは許されない」とする平成21年の最高裁判例に依拠し、「譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者」である客にはその無効主張適格がないものの、差押債権者である国とこれに類似する法律上の地位にある破産管財人には「独自の利益を有する」としてその無効主張適格を肯定した。
しかし、裁判所は、売掛債権早期資金化業者には譲渡禁止特約の有無について重過失はなかったとして、結論として国と破産管財人の主張を排斥している。ここで、裁判所は、二者間売掛債権早期資金化の特徴として、取引先に債権譲渡の事実を知られると信用の低下につながるため、取引先に知られずに債権譲渡による資金調達を行うことを目的としているのであるから、取引先に対し、譲渡禁止特約の有無を確認しなければならないとすると、契約の目的が達成できなくなるおそれがあることを理由の一つとして挙げている。
なお、裁判所は、売掛債権早期資金化業者ではない二重譲渡先については、重過失を認めている。
⑶ 「平成28年10月1日から同年11月30日までの間に」という幅のある記載では譲渡対象債権が特定されていない
本件で最も特筆すべきところは、譲渡対象債権の特定についての判断である。
本件では、譲渡対象債権は、「平成28年10月1日から同年11月30日までの間に」客が第三債務者から支払を受ける○○債権の内金○○円という形で記載されており、10月支払分債権と11月支払分債権が含まれていた。
裁判所は、このような記載では「譲渡対象債権が特定されているとはいい難い」として、「契約締結の時点では,当然には債権譲渡の効力は生じず,仮にその時点で譲渡通知が行われていたとしても,対抗要件を具備しないものと解すべき」とした上で、第三債務者から客に10月支払分債権について支払いがされ、客がこれを売掛債権早期資金化業者に支払っていないことから、11月支払分債権に事後的に特定されたと判断し、結論として、売掛債権早期資金化業者の供託金還付請求権を全面的に認めた。
3 講評
二者間売掛債権早期資金化の合法性については、東京高等裁判所平成29年5月23日判決が積極的に判断しており、実務的にはこの評価が定着していること裏付ける判例です。
譲渡禁止特約による債権譲渡の無効主張適格については、破産管財人につき下級審において判断が分かれており、本判例では積極的な判断がなされていますが、二者間売掛債権早期資金化の特徴を挙げて売掛債権早期資金化会社に「重過失」はなかったとは判断したことは重要な意義を有するものと考えます。
他方、譲渡対象債権について「平成28年10月1日から同年11月30日までの間に」というような幅のある記載では、債権の特定性について消極に解されています(事後的に特定することはあるとの判断です)。