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2021.11.12 / 最終更新日:2021.11.12

平26(ワ)2654号 損害賠償請求事件 判決言い渡し

事案の概要
架空債権の譲渡
本件は、ファクタリングの利用会社が架空債権をねつ造してファクタリング会社へ譲渡して、代金を詐取した事案です。ファクタリング会社は債権が架空であることに気づき、利用会社へ損害賠償請求を行いました。裁判の原告はファクタリング会社、被告は利用会社とその代表者です。

債権のねつ造にかかわったのは、被告会社の代表者と取締役、さらには原告の販促にかかわっていた別会社の関係者でした。

被告の取締役らは、東日本大震災によって被害を受けた東北地方の復興工事に関して架空の債権をつくりあげ、原告へファクタリングを申し込みました。
ファクタリング会社は被告の説明を信用し、合計で額面額1億3977万1800円分の債権を買い取り、譲渡手数料を割り引いて1億2579万4620円を被告会社へ支払いました。

架空債権の発覚
本件で譲渡された債権は架空であったため、被告会社は契約とおりに回収して原告へ払うことはできませんでした。そこで原告が第三債務者に請求を行い「債権は架空である」事実が発覚しました。

原告は被告会社や代表者の詐欺によってだまされて損害を被ったので、被告らに対し、1億2579万4620円全額についての損害賠償と弁護士費用の1250万円、合計1億3829万4620円の請求を行いました。

裁判における原告の主張
本件裁判において、原告は以下の主張を行いました。

被告会社への請求
被告会社に対しては、以下の法的根拠により、損害賠償金の請求もしくは不当利得返還請求を行いました。
使用者責任
本件では被告代表者や被告の取締役が架空の債権をでっちあげて、原告から資金の融通を受け、原告へ損害を与えています。
このように、被告会社が営業に使っている人の不法行為によって原告へ損害を与えたため、被告会社には「使用者責任」が成立します。
そこで原告は主位的な請求として、被告会社へ使用者責任にもとづく損害賠償請求を行いました。
不当利得返還請求
仮に不法行為責任が認められないとしても、被告会社は実際には存在しない債権の譲渡により、1億2579万4620円もの金員を取得しています。
これは法律上の原因のない不当利得となるので、原告は被告会社へ不当利得返還請求を行いました。
会社法350条にもとづく損害賠償責任
会社法では、会社は「代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と規定されています(会社法350条)。
本件では被告代表者の詐欺という不法行為によって原告が損害を被ったので、被告会社は会社法にもとづく責任も負う、と主張しました。

被告代表者への請求
原告は被告代表者個人に対し、以下のような請求を行いました。
不法行為にもとづく損害賠償請求
被告代表者は、自ら架空債権をねつ造して原告へファクタリングを申し込んだので、不法行為が成立します。
そこで原告は被告代表者に対し、主位的に不法行為にもとづく損害賠償請求を行いました。
会社法にもとづく損害賠償請求(会社法429条1項)
会社法429条1項では、「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う」と規定されています。
本件の被告代表者は故意に架空の債権をねつ造してファクタリングを申し込んだので、当然悪意や重過失があったといえます。
よって原告は被告代表者に対し、予備的に会社法にもとづく損害賠償請求も行いました。

被告の反論
被告側は、以下のように反論しました。
詐欺が成立しない
被告会社はまず「本件では詐欺にあたらず不法行為が成立しない」と主張しました。
すなわち本件のファクタリング契約は、実質的に原告が被告会社へ融資を行うための金銭消費貸借契約であると主張。そうだとすれば、譲渡された債権に実体があるかどうかは問題にならないので、譲渡された債権が架空であっても詐欺にならないという意味です。

被告がファクタリング契約を実質的に金銭消費貸借と主張した理由は以下のとおりです。
●第三債務者の無資力の危険は被告会社が負担していた
●原告は、債権譲渡の対抗要件を備えていなかった
●ファクタリング契約の際、第三債務者への信用調査が行われていない
●異なる取引先との複数債権が譲渡されているにもかかわらず、利率は一律に12%であって支払い予定日も固定されていた
●原告の販促活動を行っていた協力会社が顧客紹介と債権内容の調査を兼任しており不自然である
●A社は金融のプロなのでだまされるのは不自然といえ、債権の内容や取引先の信用に対して関心がなかったことの顕れである
被告代表者は架空債権のねつ造に関与していない
また、架空債権の譲渡を主導したのは原告を補助していた販促協力会社とその関係者であり、被告代表者は架空債権譲のねつ造に関与していないとも主張しました。
過失相殺
被告らが損害賠償責任を負うとしても、原告は貸金業法や出資法の脱法行為としてファクタリング融資を行っており、重大な過失があるといえると主張。
また本件では原告の営業を補助していた別会社の関係者が深く関与し、架空債権の譲渡を主導した経緯がありました。このように、履行補助者に責任が発生する場合、原告本人にも過失相殺を適用すべきと考えられます。
本件の原告には大きな過失が認められるので、過失相殺を適用して賠償額を減額すべきと主張しました。

原告の再反論
被告の反論に対し、原告は以下のとおり再反論を行いました。
●本件で被告は取引先の不払いリスクを負っていない。原告が相殺できるのは、被告会社が取引先から受領したお金を払わない場合に限定されており、一般的な未回収リスクを被告会社に負わせるものではない
●原告は譲渡債権にかかる工事現場を確認しており「債権に関する調査」を実施した
●設定された利率や支払日が一律であっても、必ずしも金銭消費貸借契約にならない
●原告の販促活動を行っていた会社が債権の調査を行ったとしても、ファクタリング契約が金銭消費貸借契約になる理由にならない
●原告の販促会社が架空債権のねつ造を指示したり主導したりしていない

裁判所の判断
裁判所は以下のように述べて、被告会社と被告代表者の不法行為責任を全面的に認めました。
被告代表者と取締役の不法行為
まず被告代表者と取締役は、以下のような不法行為を行ったと認定されました。
●被告会社の取締役は原告とのファクタリング契約に先立って、架空の工事請負代金の請求書を作成した
●被告取締役は架空の工事現場の写真を撮影して、原告へ提示した
●被告代表者は架空債権であることを知ったが、取締役から「別会社から借り入れて決済すれば大丈夫」といわれて納得し、架空の取引を継続した
以上のような被告代表者や取締役の行動をみると、原告に対する詐欺を行った事実は明らかで不法行為が成立すると認定されました。

債権が架空であったことは契約上重要な事項であり「詐欺」になる
被告らは「本件のファクタリング契約は実質的に金銭消費貸借契約であるから、譲渡債権が架空かどうかは問題にならず、詐欺は成立しない」と主張しました。
しかし裁判所は以下の理由から、この主張を排斥しました。
●債権が架空とわかっていれば、原告は被告会社へのファクタリングを実行しなかったはずであり「債権に実体があるかどうか」は契約上の重要なポイントであったといえる
●被告会社の取締役は譲渡債権が架空であると原告に知られないように隠していたのであり、「架空である事実を知られたらファクタリングを利用できない」と認識していた

つまり「債権に実体があったかどうか」はファクタリング契約の重要事項であり「架空かどうかは問題にならない」という被告らの主張に理由はないと判断されました。

ファクタリング契約は金銭消費貸借契約ではない
被告らは本件ファクタリング契約が実質的に金銭消費貸借契約であるから譲渡債権の実体が問題にならず、原告に過失相殺を適用すべきと主張していました。
しかし裁判所は以下の理由から、この主張も排斥しました。
●被告会社は第三債務者の無資力のリスクを負担していない
●原告が対抗要件を備えていなかったとしても、契約が金銭消費貸借契約になるわけではない
●原告は第三債務者に対する一定の信用調査を行っている

過失相殺は適用しない
被告らは、本件が実質的に金銭消費貸借契約であり原告がファクタリングの名を借りた脱法行為を行ったこと、原告の販促会社が「履行補助者」として架空債権の譲渡を主導したことを理由に過失相殺を主張していましたが、裁判所は過失相殺も認めませんでした。
先に説明したように、そもそも本件ファクタリングは金銭消費貸借契約ではありません。
また販促会社が一定程度関与していたとしても、販促会社の関係者が架空債権譲渡の指示を出した証拠はなく、履行補助者とは言い切れないと判断されました。
むしろ積極的に架空の請求書や現場写真を提出して原告をだましたのは被告会社の取締役であり、原告に過失相殺を適用すべき事情が存在しないとも言及されています。
結論として、裁判所は被告会社と被告代表者に対し、1億2579万4620円と弁護士費用1250万円の全額の支払い命令を下しました。

講評
本件で、被告会社は架空債権の譲渡によりファクタリング会社から1億円以上のお金をだまし取っています。
実際、資金繰りに窮すると、架空債権の請求書や支払い確約書などの資料を提示して虚偽のファクタリングを申し込む企業もまれに存在します。
しかしファクタリングで架空債権を譲渡すると、本件のようにいずれは発覚して大きなトラブルにつながります。
裁判になってから「実質的に金銭消費貸借契約であるから債権の実体は問題にならない」などと主張しても、なかなか認められるものではありません。

詐欺は犯罪ですから、ファクタリング会社が被害申告すると刑事事件に発展する可能性もあります。本件のように1億円以上もの金額を詐取したとなれば、実刑になる可能性も相当に高くなるでしょう。ファクタリングを利用するときには、くれぐれも架空債権を提示しないよう注意すべきです。