2021.01.07 / 最終更新日:2021.01.07
平27(ワ)24861号 不当利得返還請求事件
1 事案
本件は、客が売掛債権早期資金化業者に対し、二者間売掛債権早期資金化が①金銭消費貸借であるとして、利息制限法を適用して過払金の返還を、また、②公序良俗(暴利行為)又は譲渡禁止特約に反して無効であるとして、不当利得の返還を求めた事案である。
客は、一審、二審、ともに敗訴し、最高裁へ上告までしたが、上告は棄却され、売掛債権早期資金化業者の勝訴判決が確定した。
2 争点に対する判断
⑴ 二者間売掛債権早期資金化は債権の売買たる実質を有し利息制限法が適用されるものではない
一審、二審、通して主として検討されたのは、債権回収の危険を客が負担していたかどうかであるところ、裁判所は、売買の目的である債権の記載と「代金額」の記載という売買契約の要件を満たした契約書と、これに基づく代金の支払いを前提に、㈠「代金額」が「契約日」から「支払日」までの期間の長短と対応していないこと、㈡債権の存在や内容の確認、第三債務者の与信調査が行われていたこと、㈢債権譲渡通知書が作成されて売掛債権早期資金化業者に交付されていたこと、を挙げて、本件の取引が売買契約の実質を有していると認定した。
さらに、二審では、㈣債権譲渡通知がされていないこと(二者間売掛債権早期資金化であること)、㈤契約書上、客が表明保証などをしていることも争われたが、前者については、取引先である第三債務者に知られないように客から債権譲渡通知を行わないよう依頼があったこと、後者については、その表明保証は債権の実在性や債務不履行などに関するものであり、第三債務者の無資力ないし任意の不払いの危険を客に負担させたものではないと判断された。
⑵ 代金額が買取債権額の77~78%では暴利行為に当たらない
裁判所は、代金額が買取債権額の77~78%では暴利行為に当たらないと判断した。なお、二審では、客が第三債務者からの回収不能等の危険を負担しているものでなければ、売掛債権早期資金化業者が回収不能等の場合に客に対し償還を求める権利を有しているものではないとして、この代金額が「等価交換の理念に大幅に違反した暴利と認めることはできない」としている。さらに、契約日から債権の支払日までが短く、第三債務者に信用力があること、売掛債権早期資金化業者が客の窮状を認識していたといった事情は、本件の取引が売買契約であることを前提とすると、暴利行為として公序良俗に反することの根拠にできないとされている。
⑶ 二者間売掛債権早期資金化においても客は譲渡禁止特約による無効主張をする独自の利益を有しない
裁判所は、譲渡禁止特約による無効主張については、最高裁平成21年3月27日判決に従い、同特約に反して債権を譲渡した客にその無効主張をする独自の利益がないと判断した。なお、第三債務者に譲渡の無効を主張する意思があることがあるなどの特段の事情がある場合には、その独自の利益があることになるが、二者間売掛債権早期資金化では、第三債務者は客に対して支払えばよいのであるから、債権譲渡の無効を主張する必要性もない、と判断されている。
3 講評
⑴ 本件は、二者間売掛債権早期資金化でよく主張される、⑴金銭消費貸借であるから利息制限法を適用して過払金が発生している、⑵暴利行為であるから公序良俗に反する、⑶譲渡禁止特約に反して無効である、という典型的な争点について上級審まで争われた事案でしたが、上告が棄却され、一審、二審を通して認められた二者間売掛債権早期資金化の合法性が最高裁においても是認された結論にいたりました。
⑵ 上記争点⑴については、売買契約の要件事実(売買の目的と代金の定めがあること)論から入り、㈡第三債務者の与信調査といった、他の判例でも挙げられる事情に加え、㈠「代金額」が「契約日」から「支払日」までの期間の長短と対応していないことや、㈢債権譲渡通知書が作成されて売掛債権早期資金化業者に交付されていたことも挙げられていることは興味深いポイントです。前者については、「代金額」が「契約日」から「支払日」までの期間の長短と対応しているとなると、それは実質的に「利息」の計算をしていたことになり、後者については、債権譲渡通知書が作成されて売掛債権早期資金化業者に交付されていたことは、正に債権譲渡として三者間売掛債権早期資金化に移行する可能性があったことを評価しているものと思われます。
さらに、控訴審では、㈣債権譲渡通知がされていないことについて、取引先である第三債務者に知られたくないという顧客のニーズとこれに伴う債権譲渡通知を行わないでほしいという顧客の依頼があったことを認定し、二者間売掛債権早期資金化の必要性が肯定されており、また、㈤契約書上、顧客が表明保証などをしていることについて、その表明保証が債権の実在性や債務不履行などに関するものに限定されていたことも見過ごせない点と言えるでしょう。
⑶ 上記争点⑵については、二者間売掛債権早期資金化において、20%前後の手数料では違法ではないという実務が確立していると捉えることができます。
⑷ 上記争点⑶については、二者間売掛債権早期資金化においても最高裁平成21年3月27日判決を踏襲し、その射程が及ぶことについて、上告が棄却されて最高裁において是認されていることから、この点についての判例は確立した言えます。