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2021.09.09 / 最終更新日:2021.09.09

平26(ワ)2654号 損害賠償請求事件

事案の概要
ファクタリングを利用する際、申込み会社が「架空の債権」をねつ造していた事件です。
申し込み会社はA社(おそらく建設業)。A社代表取締役Bと取締役のCは、結託して「東日本大震災の復興工事に関する工事代金債権」をねつ造し、X社(ファクタリング会社)へ資金調達を申し込みました。
X社は債権が実在すると信じてA社へファクタリングを実行し、額面額1億3977万1800円の債権(すべて架空)を譲渡対象として、X社からA社へ手数料を割り引いた1億2579万4620円が交付されました。

その後、債権の弁済期が到来しても当然債権は支払わなかったためX社が調査したところ「架空債権」である事実が発覚。
X社はBやCによる詐欺について「不法行為にもとづく損害賠償請求」として、A社と代表者であるBに対し訴訟を提起しました。
なおA社については使用者責任や不当利得返還請求、Bについては会社法上の取締役の責任追及も請求原因とされています。
裁判では弁護士費用として1250万円も請求されました。

当事者
A社…ファクタリングを利用した中小企業。本件の被告。
B…A社の代表取締役。取締役Cと結託して債権をねつ造し、X社にファクタリングを申し込む。本件ではA社と並んで被告となった。
C…A社の取締役。Bと結託して架空債権のねつ造に関与。ただし訴訟の被告にはなっていない。
X社…ファクタリング会社。本件の原告。
紹介会社…X社へ顧客を紹介していたと思われる会社。X社とA社の間をとりもっていた。

裁判の経緯
X社の主張
不法行為に基づく損害賠償請求
A社の取締役Cは実際には工事が存在しないのに架空の工事をでっちあげて債権があるかのように説明し、X社をだまして資金調達を行った
A社には上記Cの行為に関して使用者責任が成立する
A社の代表者であるBは工事が架空であると知りながら架空債権を譲渡してXから資金調達を受けたので不法行為責任を負う

会社法の任務懈怠責任
A社の代表者であるBが架空債権を譲渡したのは善管注意義務違反であり、任務懈怠責任を負う。よってA社もその損害賠償をしなければならない

不当利得返還請求
A社は架空の債権を譲渡して資金調達しており「法律上の原因なしに受益している」し、自ら債権をねつ造しているので「悪意」である。よってX社に対し、年5%の利息をつけて受け取った金額を返還しなければならない

弁護士費用
本件の請求金額は1億2579万4620円であり、その10%である1250万円は弁護士費用としてA社からX社へ支払われなければならない

A社側の反論
A社と代表者であるBは「本件のファクタリング契約は金銭消費貸借契約であり、譲渡された債権が架空かどうかは契約の有効性に影響しない。詐欺ではないので不法行為や不当利得は成立せず、調達した資金の返還義務はない」と主張し、X社側の請求を否定しました。
つまり「貸金契約である以上、被告は期日までに利息相当分を上乗せしてX社へ支払う義務を負うだけである。X社が債権回収することはまったく予定していなかったため、当該債権が架空かどうかは問題にならない」という理屈です。

ファクタリング契約を金銭消費貸借契約とする根拠は以下のとおり主張されました。
●第三債務者の無資力リスクはA社が負担していた
●X社は債権譲渡の対抗要件を備えていなかったし、万一のときに債権譲渡通知を送るためにA社からX社へ交付された書類にも形式的な不備があり通数も足りていなかった
●取引先への信用調査が行われていない
●数回にわたってファクタリングが行われたにもかかわらず、利率や支払い予定日が一定である
●紹介会社が信用調査を兼務している
●X社の代表者は金融のプロフェッショナルである

Bの任務懈怠責任について
本件契約は金銭消費貸借契約であり、債権が架空かどうかは問題にならない。よって架空債権をX社に提示してもBは善管注意義務違反にならず、A社も会社法上の責任を負わないと反論しました。

不当利得返還請求について
本件で締結されたファクタリング契約は、実質的に金銭消費貸借契約であるにもかかわらず利息制限法を大きく上回る「利率」が設定されている。よって「貸金業法」や「利息制限法」「出資法」の脱法行為といえ公序良俗違反となり無効になる。
X社によるA社への貸付は「不法原因給付」になるため、A社はX社へ返還義務を負わないと主張しました。

過失相殺
上記に加え、A社側は「過失相殺」も主張しました。過失相殺とは、「不法行為において被害者側にも責任があるため、損害賠償額を減額する」考え方です。被害者にも責任がある以上、損害を公平に分担するために責任割合に応じて賠償額が減額されます。
A社が過失相殺を主張した理由は、以下のとおりです。

●本件ファクタリング契約は貸金業法や出資法などの金融法制の脱法行為として行われた
●架空債権のねつ造や提示はX社の代理人的立場にあった紹介会社の指示によって行われた
上記のようにX社側にも責任があるため、たとえ損害賠償が認められるとしても過失相殺によって大幅に減額されるべき、と主張しました。

裁判所の判断
BとCには欺罔行為がある
本件では、A社の代表者であるBと取締役であるCに「欺罔行為(X社をだます行為)」があったかどうかが問題となりました。
欺罔行為があれば基本的に不法行為が成立し、A社とBはX社へ損害賠償をしなければなりません。

裁判所は以下のような理由によりBとCに欺罔行為を認めました。
●CはX社との個別契約に先立って工事請負代金債権の請求書をねつ造し、現場写真を撮影するなどしてX社へ提出した
●Bは譲渡債権に架空債権が含まれている事実を知りながら、ファクタリングを実行した
●譲渡債権が架空であったことをX社が認識していた事情はまったくみられない

本件は金銭消費貸借契約ではない
A社側は「本件債権譲渡契約は実質的に金銭消費貸借契約であるから、架空債権であっても問題にならない」と主張しましたが、この点について裁判所は以下の理由で否定しました。

●本件ファクタリング契約において、取引先(架空)の無資力リスクはX社が負担していた
●本件では債権譲渡の対抗要件が備えられておらず、A社からX社に交付された債権譲渡通知書も通数が不足しており内容に形式的な不備があった問題がある。しかしX社はA社へ追加で通知書の交付を求めていた事情もあり、契約が金銭消費貸借であるといえる理由にはならない
●X社は譲渡債権について一定の調査を行っている
●紹介会社が介在していたりX社の代表者が金融のプロフェッショナルであったりしても、本件契約が金銭消費貸借契約であったとはいえない

過失相殺は適用しない
A社側は「本件ファクタリング契約は貸金業法や出資法等の脱法行為である」から過失相殺を適用すべきと主張しましたが、裁判所は「そもそも本件契約は金銭消費貸借契約ではない」と判断してこの主張を排斥しました。
またファクタリングの紹介会社が介入し、紹介会社がX社の履行補助者、代理人として架空債権のねつ造を先導したという主張に対しては「そもそも紹介会社がX社の代理人や履行補助者的立場であったとはいえない」と認定。また紹介会社の代表者が債権のねつ造を知っていた事情も認められないなどの事情もあり、過失相殺は認めませんでした。

損害額
本件ではA社が架空債権をでっちあげて資金調達を受け、合計1億2579万4620円を詐取しているといえるから、この金額はX社における損害額でありA社は全額払わねばならない。
またその10%である1250万円が関連する弁護士費用と認められるから、A社とBは連帯して合計1億3829万4620円と遅延損害金(年5%)を払わねばならない、と認定し、A社とBへ支払い命令を下しました。

講評
本件ではファクタリングを利用した中小会社が架空の請求書をねつ造し、ファクタリング会社をだまして資金調達を受けています。実際、架空債権をでっちあげてファクタリングを受けようとする企業は少なくありません。
しかし偽造した請求書や契約書でファクタリングを受ける行為は詐欺であり、本件のように不法行為を構成します。民事的に損害賠償請求されたら、利用会社は遅延損害金と弁護士費用を加算した全額を返還しなければなりません。

本件で被告会社側は「実質的に金銭消費貸借契約なので債権が架空かどうかは関係ない」と主張しましたが、このような主張は認められないのが通常です。本件でも反論は否定されましたし過失相殺の主張も全面的に否認され、原告の請求が全面的に認められています。

そればかりか、詐欺は刑法的にも「詐欺罪」という犯罪を構成します。ファクタリング会社が刑事告訴をすれば、利用会社の代表者や実行犯となった役員が逮捕起訴されて有罪となる可能性もあります。

ファクタリングを利用するときに架空債権を捏造する行為は極めてリスクが高いので、絶対にしてはなりません。今後の参考にしてみて下さい。