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2021.10.01 / 最終更新日:2021.10.01

令2年(ワ)第14733号 不当利得返還請求事件

事案の概要
本件は、ファクタリングを利用した事業者(管工事業)がファクタリング会社に対し、「本件のファクタリング契約は実質的に債権譲渡担保つき金銭消費貸借契約である」と主張して「公序良俗違反」とし、支払い済みの回収金の全額について返還請求権を主張した事案です(ただし実際に訴訟上で請求されたのはその一部です)。

また契約が有効であるとしても、少なくとも「利息制限法を超過する手数料分」については不当利得になるとして、予備的に過払い金返還請求も行われました。

当事者
原告…A社(管工事業)
被告…B社(広告代理店等。ファクタリングも行っている)

前提事実
管工事業を営むA社は、広告代理店業務などを主に行っているB社のファクタリングサービスを利用しました。
売掛債権の譲渡は6回にわたって行われ、譲渡債権の額面額は合計391万円、ファクタリング手数料額が差し引かれたためA社へ実際に支払われた譲渡代金は311万5000円でした。

A社とB社の間では「取立事務委託契約」が締結され、第三債務者からの債権回収はA社が行うことになっていました。そこでA社は債権回収を行い、回収した303万800円をB社へ支払いました。

原告(A社)の主張
A社はB社に対し本件訴訟において、以下の2つの主張を行いました。
主位的主張
主位的主張とは「第1次的な主張」です。主位的主張が認容される場合、他の主張について判断してもらう必要はありません。

A社の主位的主張は、「本件ファクタリング契約は公序良俗に反して全面的に無効」というものでした。理由は「ファクタリング契約が実質的に債権譲渡担保つきの金銭消費貸借契約であり、貸金業法や利息制限法を潜脱する違法行為」というものです。

A社が「金銭消費貸借契約」と主張した根拠
A社が「本件のファクタリング契約が実質的に金銭消費貸借契約」とした根拠を示します。
●取立事務委託契約が締結されていた
本件でB社はA社へ債権回収を委託していました。債権譲渡が行われた場合、原則的にはB社自身が債権回収するはずです。それにもかかわらず取立事務委託契約が締結されたことは実質的に金銭貸借契約であると伺わせる事情であるという主張でした。

●回収できなければ契約を解除できると定められていた
A社とB社とのファクタリング契約では、第三債務者からの回収が不能な一定の場合に契約解除ができる旨が定められていました。

●譲渡された債権がA社の保有する債権の一部であった
譲渡対象となったのはA社が第三債務者に対して有する債権のうち一部でした。

●B社が債権回収不能のリスクを負っていない
A社は「本件ファクタリング契約においてB社は債権回収不能となった場合のリスクを負っていない」と主張しました。債権譲渡契約であれば譲受人がリスクを負担すべきところ、B社はリスクを負っていないので本件契約は金銭消費貸借である、という主張です。

●第三債務者による不払いが生じたときにB社が第三債務者へ請求しないためにはA社は買い戻しをせざるを得ない立場であった
取立事務委託契約が締結されていても、第三債務者が支払いをしない場合には譲受人であるB社が直接第三債務者へ請求することになります。
しかしB社が請求すると第三債務者に「A社がファクタリングを利用した事実」を知られて信用が毀損されるおそれがあります。信用を維持して取引を継続したいならA社は「事実上債権の買い戻しをせざるを得ない」立場ともいえます。
これでは「買戻特約」がついているのと同様といえるので、債権譲渡契約とは認められないと主張しました。

●ファクタリング契約の際、B社はA社の信用調査を行った
ファクタリング契約を締結するとき、B社はA社の信用調査を行ったうえで手数料率を定めたことも「実質的に金銭消費貸借契約」である根拠とされました。

以上よりA社は本件ファクタリング契約について、金銭消費貸借契約を債権譲渡契約といい換える脱法行為であり公序良俗に反して「全部が無効」と主張しました。「支払った全額の返還請求権がある」と主張し、裁判ではその一部である180万円の返還を求めました。

予備的主張
予備的主張とは、「主位的主張が認められかった場合に念のために行う2次的な主張です。
A社は主位的主張が認められない場合に備え「本件ファクタリング契約の全部が無効ではないとしても、利息制限法を超過する『払い過ぎ利息』については取り戻し請求権がある」と予備的に主張しました。結果として53万1764円の過払い金の返還を請求しました。

被告(B社)の反論
B社はA社の主張を全面的に否定し「そもそも本件ファクタリング契約は売掛債権売買契約(債権譲渡契約)であり金銭消費貸借契約ではない」と反論しました。
「取引の際に買い戻しが合意されていた事情も一切なく、債権譲渡担保つきの金銭消費貸借契約と評価される余地はない」と主張しました。

結論的に本件ファクタリング契約が公序良俗に違反することもないし、利息制限法も適用されないので利息の過払いが生じる可能性もなく、B社がA社へ何らかの支払いをする必要はない、という主張です。

裁判所の判断
以上のA社とB社の主張に対し、裁判所は以下のように判断してA社の主張を全面的に排斥しました。
経済的に金銭消費貸借契約に似た特徴があっても債権譲渡契約は成立する
A社は本件ファクタリング契約の目的が資金調達であり、経済的には「債権譲渡担保つき金銭消費貸借と同様」である事情を連ねて「金銭消費貸借契約」であると主張しました。

しかし裁判所は「経済的な性質が金銭消費貸借に類似する債権譲渡契約が禁止されるものではない」「A社の主張する事情があるとしても本件各取引が売買であることが否定されるわけでもない」と判断しました。

買戻し合意は存在しない
A社は「第三債務者が支払いを怠ったときにB社が第三債務者へ直接請求するとA社の信用が害されるので、A社は事実上買い戻しをしなければならない立場にあった」と主張しましたが、裁判所は「そういった事実上の事情があったとしても『買戻しの合意があったとはいえない』」「A社における事実上の不利益はおよそ債権の売買において一般的に生じうる現象であり、売買契約としての性質を否定する特別な事情にはならない」と判断しました。

公序良俗違反といえない
本件取引はいずれも債権の売買契約であるから、手数料が高額であるとしても利息制限法に違反せず、公序良俗に反しないと判断されました。
よってA社による主位的主張(契約が無効で支払った債権の全額について返還請求があり、一部である180万円の請求)は棄却されました。

利息制限法の適用もない
本件において取引の性質が債権譲渡契約である以上、利息制限法の適用はありません。
よってA社がB社へ支払った手数料が「利息の過払い」になる可能性もなく、過払い金としての53万1764円の返還請求も認められませんでした。

以上のとおり、A社の主位的主張も予備的主張も否定されたためA社は全面的に敗訴し、本件訴訟はファクタリング会社であるB社の前面勝訴に終わりました。

講評
本件ではファクタリングを利用した会社が「実質的に金銭消費貸借契約である」と主張して「支払った債権全額の返還請求権(公序良俗違反を前提とし、契約の無効を主張)」と「過払い金返還請求権(契約は有効としても、利息制限法を超過する部分の返還請求)」を請求しています。

しかし裁判所は上記の双方を否定しました。原告が「実質的に金銭消費貸借契約である」根拠を十分に主張立証できなかったためです。

事実上の不利益のみでは買戻し特約が認められない
事業者間の2社間ファクタリングが実質的に金銭消費貸借契約といえるためには、「回収不能リスク」をファクタリング会社が負っていなければなりません。
そのためには契約において明示的に「買戻し特約」がついているなどの事情が必要です。単に「ファクタリング会社が第三債務者へ請求すると信用が毀損されるので、譲渡会社が秋戻さざるを得ない」といった事実上の事情があるだけでは、買戻し特約は認定されません。

経済的な機能と法的性質はイコールではない
ファクタリングは資金調達目的で利用されるので、債権譲渡契約とはいっても「経済的には金銭消費貸借契約に近い」性質を持ちます。ただし本判決では「それだけでは法的に金銭消費貸借契約と同一に取り扱うことはできない」と判断されています。

今後ファクタリングの利用を検討されている企業やファクタリング業務を行っている事業者の方はぜひ参考にしてみてください。